第42話 開戦秒読み 1
時を同じくして、暮斗は戦いに赴く準備をしていた。ヒーロー側としても開戦秒読み。キャンプ地には緊張が走っていた。
誰もが怪人との戦いを見据えている中、ただ一人別の方向を見ているのが暮斗である。
勝つ気はない。かといって負ける気ない。導く先は勝敗を超えた甘っちょろい人命保護である。
だが大義はその先にある。争うことのない世界というものは人類が目指すべき究極の目標であるのだから。
「……こんにちは、暮斗さん」
と、誰もが見据えている勝利の先の未来を見ている暮斗の隣に舞が腰を下ろした。
「よう、こないだぶりだな」
「はい。暮斗さんも今回の作戦に参加してくれたんですね。心強いです。前までどんなことがあっても無関心だったのに、なにか心境の変化でもあったんですか? もしかして、あまねちゃんのこととか」
「……んー、まぁな」
「隠さないんですね」
「隠す理由もないだろ。別に変な関係でもないんだし」
「そんな関係でもないのに、なんでそんなに気にかけるんですか? あまねちゃんから連絡が来ないとき、ガイにひっきりなしに連絡してきて……。見てて楽しかったですよ」
「うわ趣味悪りぃ。…………いや、なんでだろうな。なんかわからないけど、あいつのことはほっとけないんだ」
暮斗は遠い目をしてそう言った。事実、出会って日の浅いあまねに対して特別な感情を抱いている自分がわからない。
かなりの美少女だとはいえ、あまねは暮斗のタイプというわけでもなかった。どう考えても友達にしか見えない。
、
だというのに何故か。暮斗にはそれがわかなかった。
「……まぁ、なんとなくわかりますけどね。あまねちゃんって放っておけないオーラが出てますよね」
「ほっとけないだけじゃないんだよ。なんか……こう……あいつと喋ってると懐かしいような……」
暮斗は深い過去の記憶にまで潜水しそのデジャビュの正体を追い求めた。だが違和感の正体にたどり着くことはなく、胸の中にしこりを残しただけの結果に終わった。
「懐かしいですか? でも暮斗さんが懐かしいと思う人なんて……」
「そう、ほとんどいねーんだよ。あんな強烈な馬鹿、会ったら絶対忘れるはずないんだけどな」
なにをどう考えてもたどり着くことが出来ない。
この違和感の正体は一体なんなのだろうか。
「ま、考えてもわからんことはなにしたってわからないってもんだ。考えるだけ無駄か」
「そうかもですね。本当に心当たりがあるならいつか出てきますよ」
「かもな。さて……」
話に一区切りついたところで暮斗は重い腰を上げた。それに倣うように舞も立ち上がる。
舞は暮斗に小さく礼をすると、マイティーモードを発動させた。瞬時に体がガイのものへと変貌し、舞の意識は奥底へと沈んだ。
ガイはこれまでと一転した男らしい態度で口を開いた。
「それじゃあ行ってくるぜ! まったくやれやれだぜ。今回の作戦で駆り出された中で俺が一番序列が高いもんだから演説やらなんやらをしないといけないんだとよ。HAHAHA、これは学生の遠足かなんかか?」
「そう言うなよ。そういうのは士気に関わってくんだ。五位様の意気込みをみんな聞きたいんだよ」
「苦手なんだよなそういうの。なのになんで毎度毎度俺に回ってくんだ?」
「指揮権を持つような高序列の中じゃお前しかまともな奴がいないからだろ。お前含めてキワモノが多すぎる」
「特に一位……悪は絶対許さないマンはな」
「まったく、違いないな」
暮斗は小さく苦笑した。そしてそのまま軽く手を振り、挨拶に向かうガイを見送るのだった。
「じゃあな。あまねちゃんのこと、しっかりな」
「言われるまでもねーよ。お前こそ油断すんじゃねーぞ」
「それこそ言われるまでもないぜ」
軽い言葉のジャブを交わしたのち、ガイはその場を立ち去り拓けた広場へと向かっていった。
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