第41話 Xの日 2
「あまね、そろそろ出るぞ。いいか? 絶対に、絶対に成果を挙げろ」
そんなあまねの隣に間が立ちそう言った。
「成果ですか? あたしにそんなの求めても無理ですよ」
「……それは分かってんだよ。大きな成果を挙げろとは言わないが、せめてなにかの役に立ってくれ」
「……それってもしかしてあたしが役に立ってないってことですか? なんか失礼ですねー。この前だって囮の役割は果たしたじゃないですか」
「それ以外のこと言ってんだよ! テメーここしばらく顔も出さずになにしてやがった! テメーに頼む仕事なんざ誰でも出来るようなもんしかねぇけどな、それでも出てくるぐらいのことはしやがれ!」
「え、えぇ……。あたし個人に頼む仕事なんかないのに行かなきゃいけないんですか……?」
「口答えすんな! とりあえず出てこいっつってんだよ! テメー個人に頼む仕事はなくったって、仕方ねーからテメーにやらせてやるっつってんだよ! 仕事をしろ。上の点数を稼げ下っ端!」
間は怒りに任せつつも美しいタイキキックであまねの尻をすっぱ抜いた。
あまりに強烈なタイキックだったため、あまねは恥じらいをも忘れてその場で転げ回った。
「痛あああああぁぁぁぁぁぁぁぁい! ぼ、暴力反対!」
「うるせぇ! 暴力で成り立ってる組織にいながら今更何言ってんだアホ!」
言われてみれば確かにそうだった。
あまねは痛みを忘れ、目を丸くしてその台詞に納得するのだった。全く単純なものである。
だが、それも今日まで。これからあまねは自然に怪人連盟からフェードアウトしていくのだ。
「……はーい」
あまねは適当に返事をした。
しかし心の中では間に最大の謝辞を述べていた。
間はこれまでの生きる意味を与えてくれた。彼女はあまねの姉が死んだ時にあまねに姉の死を告げ、復讐の道を歩かせた。
なによりも大切なものを失い、失意のどん底に落ちたあまねに歩むべき道を教えたのだ。それがどのようなものだとしても、あまねにとっての初めてにしてもう一人の恩人だった。
間はあまねに直接的な破壊活動は命じなかった。いつも偵察や潜入などの人の命を奪わない、怪人連盟の中では『優しい』任務のみ与えられていた。
鈍いあまねだが、間と時を同じくしていると嫌でも気がつく。
――彼女はどこか、いつでも足を洗えるような逃げ道を用意してくれていたように思えて仕方がなかったのだ。
非常に口と態度が悪く、部下を馬車馬かのように扱う悪魔のような上司だったが、心の奥底では自分を気遣ってくれる優しい上司だった。だがその片鱗は決して見せようとせず、照れを隠すかのようにキツイ言葉を投げかけてくるのだ。
所謂ツンデレだった。
そんな彼女はあまねに『復讐しろ』と囁くのだが、その表情の隅には迷いのようなものが見られた。あまねは、あまねだからこそ気づけた感情の変化だ。
復讐しろ、と言いつつも復讐に近づくための破壊活動はさせない。間の在り方は矛盾していた。
あまねは間の表情をちらりと覗き見た。苛つきつつも指揮官としての体裁を保っている彼女は、上司に相応しい怪人である。
そんなことを考えていたとき、間は拡声器を口元に添え、号令を出した。
『聞けテメーら! テメーらはヒーローと人間が憎い、そうだろ!』
その叫びに呼応するかのように口々に鬨の声が上がる。間は開戦前に兵を鼓舞しているのだ。
『ヒーローと人間が支配するこの世界が憎いんだろ⁉︎ 私も奴らが憎い! 親友を奪ったヒーローが!』
『この憎しみを晴らす手段はなんだ! 双方の歩み寄り? 違う。怪人連盟の譲歩? 違う! 我々が出来る選択は、破壊により奴らを恐怖のどん底に叩き落とすことだけだ! 剣を取り拳を挙げろ怪人ども! 我々が望む未来のために、破壊しろ!』
――その号令と共に破壊活動はスタートした。あちこちから野太い鬨の声が上がる。怪人たちが駆ける力はおびただしい量の土煙が巻き上がっていた。
――さよなら、あたしのもう一人の恩人。
あまねはその景色を見て、指揮をする間を見て心の中で別れを告げた。
あたしはこの道を行けない。
くるり、と踵を返すと、あまねはフードを被って学校へと向かった。
あまねは嫌な予感がしていた。何故か、佳奈や愛梨沙がこの事態に巻き込まれているような、そんな。
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