第37話 大事な話 2
「そうだ。戦いの日取りが決まった。日にちは丁度一週間後だ。スパイのリークによると、怪人連盟はノーマライザーを量産してるプラントを襲撃する予定らしい」
「ノーマライザーって?」
「ヒーローが使ってる量産武器のことだよ。レゾナンスを持ってない下位のヒーローが持ってるやつ」
「ああ、あれってそんな名前だったのね。それにしてもプラントって、破壊されたら戦力がかなり低下するんじゃないの? 確かアレ案外脆いからいっぱい作らないといけないんでしょ?」
「かなり低下するな。耐久度にしても、あくまで量産型だからな。最低限の武装しかない上に擬似的にレゾナンスを再現した規格は消耗品の電池みたいなもんだ。数ヶ月に一回程度は変えないといけない」
「なんでそんな粗悪品いっぱい作るのよ。全員にレゾナギア持たせた方がいいんじゃないの?」
「ある程度武器が統一されてないと統率がとりにくいんだよ。アクティブのヒーローは五万人はいるんだぞ。全員のレゾナンスのメリットデメリットを把握しきれない。それにレゾナギアを作るのと、レゾナンスを解析するのって滅茶苦茶金がかかるんだよ。一人分用意するのに、ノーマライザーを百個は作れる。よっぽど強いヒーローに持たせないと割に合わないんだよな」
「へぇー、そんな事情があったのね」
「金がないから武器を用意しない、なんて情けないこと世間に知られたくないから公表はしてないけどな。お前も不必要に喋らないようにしてくれよ?」
「わかってるわよ。……というか、あんたよくそんな事知ってるわね。さっきの襲撃の件といい、裏事情といい。あんたハグレだって言ってたわよね? 普通ハグレにそんな情報が回ってくるもんなの?」
指摘された暮斗はなにやらギクリとした様子でうろたえ始めた。嘘をつくことに慣れていないのか、動きがどこかぎこちない。下手くそな口笛なんかも吹いている。
大した疑問を持っていたわけでもないのだが、ここまであからさまに白々しいと逆に疑問が深まっていく。
「……あんた何隠してんのよ」
「い、いや別に……。お、俺は俺なりの情報源があるってこった」
「怪しさ全開じゃない。……まぁ隠してるなら別に聞かないけど」
「そ、そうだぞ。別に聞いても面白いもんじゃないしな」
運良く追及を免れた暮斗は、あまねの隣で心の底から安心したようで、ようやく表情を緩めた。
更に追及を逃げるかのようにゲーム機に手を伸ばしそのまま電源をつけた。すると誘われるようにあまねもコントローラーに手を伸ばした。まさに目論見通りである。
画面に映されるのは飽きるほどプレイしてもいつまでも飽きがこない戦士ファイター。この映像を見てるだけで心が踊ってくる。
二人は流れるような手つきでキャラを選択し、対戦を始める。
部屋の中ではかちゃかちゃという忙しないコントローラーの音とテレビから出るゲームの音以外の音はない。画面の中の世界へ二人は溶け込んでいるのだ。
それ以外のことは何も考えない。ただ退廃的にこの瞬間だけを楽しんでいるのだった。
やがて数分のち、勝負に決着がつく。
結果はあまねの勝利で終わった。
「はー、やったわ」
「クソッ、勝てなかった」
「いつもより動きが鈍かったわよ。というか、あたしが速くなったのかしら? 覚醒したのかしら!」
「んなわけねーだろ。俺が集中力欠いてるんだよ」
暮斗は悔しくなり、あまねの額を指で弾いた。増長するのが悪い。
「痛ったいわね! 女子に何すんのよ!」
「うるせぇ。次やんぞ次」
「ふふん、次も負けないわよ」
「言ってろ」
小休憩を挟んでから再びコントローラーを手に次の対戦を開始しようとする。
だが、あまねはコントローラーを手にせず、暮斗に一つの問いを投げかけたのだった。
「ねぇ、そういえばあんたってどこに配置されるわけ?」
「配置って、なんの?」
「一週間後の戦いに決まってんでしょ馬鹿。まぁ、前線に配置されるってことはないと思うけど」
「何言ってんだ? 最前線に決まってんだろ」
一瞬言っている意味がわからず、五秒ほど間が出来た。
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