第36話 大事な話 1

「ほら、これ食え。食ったことねーけど多分美味いぞ。あとこれ飲め。知らねーけど多分美味い。あ、これも知らんけど多分美味いぜ」



「あんたはなんでも勧めて来るおばあちゃんか! 貰うけど!」



 家に入るなり暮斗は怒涛の勢いでケーキやらジュースやらを勧めてくる。その必死さにあまねはつい頬が緩んだ。



 対して暮斗はいつまでも落ち着きを取り戻さず、そわそわとしたままだ。



 あまねにとってもそれは落ち着かず、ケーキを口にする前にまずそこから尋ねた。



「……なによ、落ち着かないわね。気持ち悪いから言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」



「ならはっきり聞くぞ。お前、この前の件はどう決着をつけた」



 でしょうね、と言わんばかりにあまねはため息をついた。あまねにとってその決断は、別に改まって話すものでも溜めて話すものでもない。ごく当たり前の選択と認識していた。



「考え直したわよ。なにを選ぶかなんか考えるまでもないわ。あたしは友達を選ぶ」



「……そうか」



「うん。お姉ちゃんのことも本当に大好きで、今でも恨みを晴らしてあげたいと思ってるけど。それでも、今の友達を失いたくない。あたしは自分のことしか考えてなかったのよ。自分勝手な考えで、友達を手にかけるって未来もあるかもしれなかった。そう考えたらこれも当然でしょ?」



「……ああ、そうだな。いい選択だ」



 暮斗は答えを聞くと安堵し、表情から焦りを消した。側から見ていてもどれだけ気にかけていたか想像に難くない。



「……だから、多分怪人連盟は抜けるわ。あー、どう言おうかしら」



「簡単に抜けられるか? 最悪でも記憶の消去くらいはされるんじゃないのか」



「多分されるわね。でも記憶消去なんかされちゃったらたまったもんじゃないわ。今のあたしの記憶が、怪人連盟から抜けるきっかけなんだもん」



「なら勝手に抜けることになるか? それかしばらく顔を出さないようにして自然消滅だ。まぁどっちにしろ簡単に抜けるってのは難しいと思うぞ」



「そうよね……でも、その時はあんたがなんとかしてくれるんでしょ?」



「……俺がか?」



「あたしがこの道を選んだのは……佳奈や愛梨沙や、舞ちゃん…………それとあんたの言葉が大きいんだから。責任、とってよね」



「まぁ、可能な限りで守ってやるさ。それが責任だってなら果たすまでさ」



「……んー、でもあんた六万位でしょ。ちょっと頼りないわね」



「失礼な奴だな。つーかしつこい奴だな。六万位だろうがなんだろうが、小娘一人くらい簡単に守ってやるよ」



「こ、小娘ってなによ! これでも結構スタイルには自信あるのよ! ほら結構おっぱいあるでしょ!」



 あまねは自身の胸を寄せ、持ち上げて縦に揺らす。たしかに揺れてはいるが、そこまで自慢できるほどの大きさではない。



「以外にあるけど誇れるほどでもねーだろ」



「これくらいあれば十分でしょうが。理想高すぎでしょ」



「理想は高すぎるくらいがいいんだよ。それより、お前は俺に守られるのじゃ不安か」



 暮斗の視線はまっすぐあまねを刺した。



 あまねは直視されるのがどこか気恥ずかしく、頬を染めて視線を逸らした。



「まぁ……別に不安じゃないけど……」



「安心しろ。ディア・エスケープは逃走専用のレゾナンスだ。なにがあっても五体満足で逃してやるよ」



「情けないようなすごいような……」



「一芸に秀でてないよりかはマシだ。それよかこっから先はしっかり聞いとけよ。大事なことだ」



「大事なこと?」

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