第38話 大事な話 3
「…………はぁああああああああああっ⁉︎ 嘘でしょー⁉︎」
あまねのあまりの驚きように、皮肉っぽさを感じとった暮斗は額に皺を寄せた。
「あのなぁ……。一応俺はレゾナンスを解析してて、レゾナギアを持ってんだぞ? そりゃ前線に配置されるだろうが」
「そ、そうなの? ……もしかしてあんたって、意外とすごい人だったりする?」
「いいや、すごくない人だ。ツテでレゾナンスを解析出来ただけで、戦力が期待されてるわけでもない。だから戦闘が始まったら真っ先にお前のところにいけるぞ」
それは事実だった。暮斗のレゾナンスは『ディア・エスケープ』。逃走専用の力を戦力として期待している者は誰一人としていない。
小娘一人くらい、と言ったが、最大でもカバーできて二、三人程度なものだろう。もう少し庇護対象が増えたならば恐らく危うい。
そこであまねはふと、暮斗には自分のほかに優先すべき者がいるかどうか気になった。
所詮行きずりの自分より、肉親などの方が大事だろう。
そう考えたあまねはその是を暮斗に問うた。
「それより、あたしばっかり守ってて本当にいいの? 家族とか守りたい人はいないの? あたしだって一応怪人連盟にいる……怪人なわけだし。なんとか逃げようと思えば逃げ切れないこともないはずよ」
これはかなり大きな問題だ、とあまねは考えた。何かを選ぶなら、何かを捨てる選択をしなければならない。ガイが言っていたことはここでも当てはまるのだ。
だが暮斗が返した返事はひどく淡白で、それでいて重いものでもあった。
「あー、お前以外いないよ。俺の家族はみんな死んでるし」
「……え?」
あまねは絶句した。
暮斗の家族が全員死んでると言う点も、それをあっさりと言う点も。
「そう……なの?」
「まぁな。何年か前に怪人に殺されてな」
「怪人に?」
「そうだよ。ヒーロー活動に身を入れてないけど、もし大切な人が出来た時に壊す側じゃなくて守る側にいようと思ったから俺はヒーローになったんだよ。お前みたいに怪人連盟にだって根から悪いやつばっかりじゃないことはわかってるけど、どうしても組織の理念的に守る側に立つことは難しいからな」
「……だからあんたは復讐を止めようとするのね」
「まぁ、な。色々あって今はヒーローと怪人が仲良くなれる未来を目指してるけど、当時家族を失った時の気持ちは…………って、お前に語るでもないな。そんなことを繰り返さないために、俺は戦いを止めるんだ」
「……そうだったのね」
ぽつりぽつりと過去を語るあまねは、暮斗の人なりがようやく見えてきたように思えた。
暮斗は自分より遥かに理性的だった。
感情に流されず、誰もがの最大幸福を追求しようとしている。
家族を失った悲しみは痛いほど理解できる。深い悲しみはやがて怒りへと変わり、復讐心を糧として自らの体を燃え上がらせるのだ。
だが暮斗はそんな感情に流されることなく、次の被害者を出さないようにすべく行動している。ヒーローも怪人もそんな思いをしないように。
――結果には伴っていなくとも。
あまねの中で暮斗への好感度がぐんぐん高まっていく。多少ぶっきらぼうだが、その言葉の一つ一つから誠実さすら感じられるように思えた。
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