第33話 姉と友達 2

 姉の戦死を聞いた時、愕然とした。ショックのあまり、喉が枯れるまで泣き叫んだ。



 ある一定のラインに達したところで、ぷつりと意識が途絶え、気絶した。あまりに深い絶望が、耐えきれなくなった自我を切断する。



 ――この絶望だ。



 この時の絶望が最愛の姉を奪われたという絶望が自身を突き動かす。いつまでも心の奥底で薪を焚べ、火を灯し続けるのだ。



 思い出すだけで、再び悪感情が芽生える。憎悪の心がまた再燃を始めるのだ。



 その度に必ず目的を果たすと心に誓いを立てるのだが、生憎と今回ばかりは勝手が違った。燃え上がった悪感情は、別の『大切な物』によって炎上が防がれている。



 燃料が供給されなくなった憎悪の炎は火を小さくしていた。



 ――佳奈と愛梨沙。友達。何故作ってしまったのだろう。



 少し考えれば、怪人として生きるなら確実に邪魔になると、分かるはずだった。事実その存在が現在あまねの決意を邪魔している。



 友達さえいなければ、復讐の道をとるだけでいいのに。こんなに考える必要もないのに。



 姉を優先する気持ちか、友達を優先する気持ちかなど迷う必要とないのに。



 考えると心が苦しい。胸が張り裂けそうになる。



 考えれば考えるほど、姉の存在が大きくなっていく。それと同時に佳奈、愛梨沙、暮斗の存在も相まって大きくなっていくのだ。大きくなるたび、どちらかを選択することが出来なくなっていく。



「どうしたらいいの……。お姉ちゃん…………佳奈……愛梨沙……………………暮斗ぉ」



 どうしようもなくなったあまねは助けを求めるかのようにその者達の名を呼んだ。誰も彼も大切な人だった。優劣などつけられない。



 姉と過ごした時間と同じくらい、佳奈や愛梨沙、暮斗と過ごした何気ない時間が自分の中で大きくなってしまっていた。



 命を助けてくれた暮斗との記憶は非常に鮮烈に残っている。あの時の出会い、その後の会話で暮斗への好感度はかなり高くなっていた。



「――というか、お姫様抱っこで助けてくれるなんてずるいのよ……」



 あまねは助けてもらった時のことを思い出して、頬を紅潮させた。



 お姫様抱っこは卑怯なのである。なんだかんだでああいうシチュエーションには弱かった。



 もう存在が頭の中に刻み込まれてしまっている。忘れようとしてもどうしても忘れられない。



 さっきのような別れ方をしたって、また会いたい自分がいた。



 会って話がしたい。また楽しい時間が過ごしたい。



 その気持ちに浸るたびに、憎悪が薄れていく。心の中に暖かい液体が満たされていって多幸感に溢れていった。



 あまねは抱き枕代わりのクッションに顔面をぎゅう、と埋めた。



 この気持ちはなんだろう。考え始めるとそのことばかり考えてしまう。



 ずっと内に抱いてきた悪感情すら希薄にしてしまうこの気持ちの正体はなんなのだろう。



 ――考えてもわからず、やきもきしてきたそのとき、不意にスマートフォンが揺れた。

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