第31話 あまねの選択 5
前の戦いとは、二年前に起きたヒーローと怪人が全てを賭して戦った、超大規模の戦争である。
戦場となった街は街としての体裁が保てなくなるほど破壊され、人体に影響を与えるほどの濃密なレゾナンスの残滓が未だにこびりついていて離れず、今でも封鎖されているほどだった。
そこまでして両者が得られた結果は引き分け。互いに主力を数名失うという痛み分けで、なんともいえない結末にわったことが記憶に強く残っていた。
――そういえば、悪は絶対許さないマンが最後に姿を現したのもそこだったっけ。
あまねは曖昧になりつつある記憶を手繰り寄せ、思い出した。
だが、今はそんなことどうでもいい。それより、次の抗争のことが先決である。あまねは思いを振り切り、そちらにスポットを当てていく。
「……そんなのがあるの?」
「あぁ。開戦までの時間はそんなに長くない。戦いが始まれば、多分お前も駆り出されることになると思う。そうなればあまねは人間たちを襲って、ヒーローと戦うことになる。その時お前は上司の命令で人を殺せるか? 万が一目の前に友達がいるとき、殺せと言われて殺せるか?」
「……嫌な言い方しないでよ。そんなの……」
あまねはそこまで言いかけて言い淀んだ。
友達というのはもちろん佳奈と愛梨沙である。殺したいはずがない。絶対に嫌だった。
だというのに、それでもまだ姉の仇討ちの諦めきれない自分がどこかにいた。自分の怨讐と、友達の命を選ぼうとしている浅ましい自分がいた。
……最低だな、あたし。
あまねは自虐的な笑みを浮かべた。
「…………少し、考えさせて。時間をちょうだい」
「あっ、おい」
それだけを言い残すと、あまねはその場から脱兎のごとく走り去った。
問題から逃げ出すように、あるいは忘れ振り切るように。
外はもう真っ暗で、闇が街を覆っていた。
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