第17話 電話相手は
その日は珍しく、奴から電話がかかってきた。
以前は会って話すことが多かったが、この一年近くは会う機会など一度もなくすっかり疎遠になっていたアイツである。
電話の相手は電波の向こう側で、相変わらずな馬鹿大きい声をあげている。
『よう、久しぶりだな! 最近見ないから死んじまったかと思ったぜ!』
一見嫌味にも聞こえかねないその台詞だったが、自分と彼との間でなら当たり前のように交わされる冗談だった。
「んな簡単にくたばってたまるかよ。つーか何の用だよ。忙しいんだろ?」
『その忙しい間を縫ってまでお前と話したかったんだよ! 親友のお前とな!』
「あーうぜぇ。どうせそれだけがメインじゃないくせに、白々しい」
『なんだ、バレてたか。いやぁ、俺の方もお上がなかなか煩くてなぁ。お前に連絡しろ連絡しろってしつこいんだよ。だからこうやってノルマを達成してやったわけだ』
「大変だな。んなクソめんどくせぇとこ抜けて正解だったわ」
『おっと、ノルマを思い出した。そのクソめんどくせぇ奴らからのメッセージだ。俺は親友のお前が決めたことに口出しする気は無いけどな! 『お前が少しやる気になれば大勢の人間を救うことも出来るんだってことを忘れるなよ』……だとさ! HAHAHA、ナンセンスだぜ!」
「そのテンションうぜぇからいい加減にしろ」
暮斗は常にハイテンションでいられることに明確な殺意を抱いた。喧しいのは嫌いではないが、喧しすぎるのは嫌いなのだ。
電話の相手のテンションは、喧しすぎるの域に達していた。
『おっと、悪かったな。久しぶりすぎて舞い上がっちまった』
反省したようなしていないようなどっちつかずな声色で、悪びれる様子もなくそう言った。
「要件はそれだけか?」
『いや、まだ一つある。今度だな……』
その時、相手の声を遮るかのようにぴんぽん、と部屋のチャイムが鳴った。電話と会話以外の音が静謐を破る。
瞬間暮斗はスマホから耳を離した。
来客である。
『おーい、どうした?』
突然気配がなくなったことで相手は暮斗の様子を確認した。
一方暮斗は来客のことばかり頭に浮かび、電話の相手のことなど意にも介していなかった。そして、大方予想がついている来客をもてなすためにコールの終わりを告げる。
「悪い、大事なお客さんが来た」
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