第6話 ヒーローと怪人と橘あまね 4

 待ち伏せするかのように立ちはだかっていたのは、三名の男達。制服を見て瞬時に判断がついた。彼らはヒーロー協会の者だ。



 ――計画は始まって五秒で瓦解した。今日という日のことを調べ尽くしたにも関わらず、その努力は五秒で無駄となる。



 ……なんでバレたの?



 だが、まだチャンスはあるはずだ。あまねはなんとかしらばっくれる方向で話を進める。



「ち、違いますよー。怪人なんて怖い人たちと間違えられるなんて心外ですー」



「その場を逃れるためとはいえ、よく仲間のことを悪く言えるもんだな。流石は怪人、心も外面も薄汚い」



「ば、馬鹿にしないでよ! それにあたしは可愛い方でしょ! 色々な方面に失礼よ!」



「おまけに頭も悪いか」



「あっ」



 苦肉の策も五秒で崩れた。



 これでは自ら怪人だとバラしたようなものである。



「け、けどなんであたしが怪人連盟だってわかったのよ……」



「声が大きくて外からでも丸聞こえなんだよ。それに、貴様が着ているその服は紛れもなく怪人連盟の下っ端のものだろうが」



「……ほんとじゃない! そりゃ怪人連盟だってバレるわよ!」



 あまねの着ている服は怪人連盟から支給された、制服代わりの多機能黒パーカー。擬態機能を備えているため、普通のパーカーのように見せかけることも可能なのだが、何故かあまねはそれをしなかった。というより忘れていた。



 用意周到に準備を整えてきたにも関わらず、あまりに浅はかすぎる。あまねは自分の頭の悪さを今回こそは本気で嘆き、その場で地団駄を踏む。



「なによー!ちょっとクール☆に決めてみたのに全然決まらないじゃないの!」



「所詮小娘のごっこ遊びか。貴様の茶番に付き合っているほど暇じゃない。ヒーロー協会だ。大人しく例の物を渡せ」



「い、嫌よ。仕事はちゃんとしないと怒られるんだから」



「あくまで抵抗するつもりか? 自慢じゃないが俺たちはヒーロー内の序列でそれなりに高い位置にいる。それが三人だ。勝てるわけがないだろ。大人しく投降するなら命までは獲らないが?」



「……嫌よ」



「抵抗した場合射殺する。怪人を殺すのにいちいち理由などいらないんだよ。貴様ら怪人は社会の癌だ」



「……嫌なやつね。曲がりなりにも『ヒーロー』なんて名乗ってるなら、もう少し正義の味方っぽくなりないよ」



「怪人は悪で、悪は排除すべきものだ。これだけで『正義の味方』足りえるんじゃないのか?」



「うへぇ……あたしが苦手なタイプだこれ……」



「怪人に気に入られなくて格好だ。大人しく投降しろ」



「嫌よ! あたしはこの仕事をやり遂げて、ヒーローあんたたちと戦えるようになる力を得るんだから!」



 あまねはスクールバッグから煙幕を取り出し、ノータイムで地面に叩きつけた。



 瞬間発生する真っ白なスモーク。一秒でも時間が稼げればという策略だった。

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