第65話 夏の海辺のアクロバティックパフェ

 そういえば、こみちパフェが不定期営業になってしまったのは、店主のヨルベナさんが自信を無くしてしまったからだと、小耳にはさんだことがあった。


 いつだったかスエナガさんが、パフェを食べに行ったら、また店主が落ち込んで店が閉まっていたとぼやいていたのだ。

 その時は、その店がこみちパフェだとは気づかなかったが、今となっては、パフェ専門店はここしかないので、そうに違いないと確信を持った。


 こみちパフェは、もともとは海岸通りに店を出していて、夏にはマリンスポーツを楽しむ人々で大繁盛していたとのことだった。


 海辺にいると、甘いもとしょっぱいもの、両方が欲しくなる。

 涼し気なパフェグラスに盛りつけられた、カラフルで楽し気なパフェには、デザートタイプも軽食タイプもあったのだという。


 アイスクリームにシャーベットにたっぷりのホイップクリームに、チョコレートソース、赤のバリエーションのベリーのジャムに、チョコスプレーに、銀色のアラザンが夏の陽射しにキラキラはじける、スイーツパフェ。


 アルファルファがぎゅぎゅっと詰められて、その上にはこんもり盛られたサワークリーム和えのマッシュポテト、生ハムに包まれたベビーリーフと赤、黄、紫のパプリカがグラスのふちでにぎやかに踊っている、サラダパフェ。


 パスタのタリアテッレがしなしなと収まっているところに、赤ワインとトマトで煮込んだくずおれそうなビーフのラグーを注ぎこみ、たっぷりパルメザンチーズを振りかけて、ガーリックチャイブバターを付けたグリッシーニがウエハースのように添えられている、デリパフェ、というか、もはやメインデッシュなパフェ。


 スイーツパフェ、サラダパフェ、デリパフェ、甘いだけでない豊富なメニューは、浜辺の人気をあっという間に独占した。


 最初はよかったのだ。

 お客さんたちと会話しながら、リクエストにも応じながら、楽しくメニューを作っていった。

 ところが、会話を楽しみたいお客さんばかりではないし、ただ面白半分で注文して食べずに写真だけ撮って捨てられてしまうことも出始めた。

 さらに、人気があるがゆえに次から次へと新製品を求められ、アーティスティックパフェと呼ばれ楽しまれていたものが、さらに面白みのあるものを求められ、試行錯誤の末に開発したアクロバティックパフェな最早パフェなのか何なのか意味不明な新作を発売したところで、いきなり客足が途絶えた。


 確かに、夏の海辺でアートなスイーツは楽しいかもしれないけれど、やり過ぎいき過ぎしかも味がこんがらがってしまっている意味不明スイーツは、夏のはしゃぎ気分が醒めた後には、敬遠されてしまったに違いない。


 それでも、アーティスティックパフェというのは、ちょっと気になった。


「アーティスティックパフェって、どんなパフェだったのですか」


 会話が途切れたのをなんとかしないとと思い、恐る恐るきいてみた。


「ああ、アーティスティックパフェね。フルーツカービングで、子どもたちが喜びそうな生きものや、カップルには花をつくったりしました」

「生きもの、ですか」

「そう、飛び跳ねるメロンイルカとか、リンゴローズの花束とか、あと、スイカを盛るパフェグラスは特注しました。ドライアイスをグラスに敷き詰めて、その上にカービングしたスイカのウエディングケーキをどーんと載せて、キャンドルを吹き消すと同時に花火を打ち上げて」

「シーサイドウエディングですね! 」


 知らずはずんでいた私の声に、ヨルベナさんの表情から少しだけ固さがとれた。

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