第53話 世界サンド

「なんて大きな食パン! 」


 ペーパーボックスのふたを開けた途端に、歓声があがった。

 箱におさめられていたのは、普通の食パン6枚分ほどで1枚の大きな食パンのサンドイッチだったのだ。

 食パンの上には柄の短い小さな国旗が6本立っている。

 それぞれの国旗にちなんだフィリングがその場所にはさんであるらしい。


「オリオンさん特製の世界サンドだそうです」

「世界サンド? さすがカフェ・ハーバルスターのメニューは、ひと味違うわね」


 ツキヨノさんは、くすくす笑いながら言った。


「少し休みます。サンドイッチ、切り分けてくださいませんか」

「はい。では、フォークとナイフをお借りします」

「あ、そうね、このまま食べるわけにはいかないものね、ちょっと待っててくださいね」


 ツキヨノさんは、カトラリーの入っている引き出しから、きれいに磨いてあるフォークとナイフを取り出してきた。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 私は、オリオンさんの特製ケータリングメニューのご相伴に預かれるので、うきうきしながら、世界サンドにナイフを入れた。


「では、まずは、日本代表の辺りを、と、日本のサンドイッチのフィリングって何かな」

「人気があるのはタマゴサンドだと思うけれど」

「確かに! タマゴサンドは大人気ですよね。厚切りトーストにはさんだり、ふかふかの出来立て食パンにはさんだり」

「タマゴの調理法も、オーソドックスなマヨネーズ和え、厚焼きだし巻たまご、ベーコンやチーズ入りのオムレツ風、いろいろあって迷いそう」


 フォークを刺して口に入れるまで、中身はわからない。

 木枠に入ったカットする前のカステラのような大きな世界サンド。


「ツナサンドも捨てがたいですよね」

「パセリやタマネギのみじん切りと一緒に混ぜてカレーパウダー入りのマヨネーズであえたのを食べたことがあるのだけれど、美味しかった」

「それも、オリオンさんが作ったんですか」

「カレーマヨツナサンドは、ソランジルさんが、自分用のランチに作ってきたのをお裾分けしてもらったんです」

「ソランジルさんって、アルバイトの学生さんでしたっけ」

「ええ。大学の学食で食べた料理をヒントにしたって言ってました」

「楽しそうですね、ここでのお仕事」


 ツキヨノさんは、にっこりすると、語り始めた。


「そうですね。砂糖菓子を作る時は、仕上がるまでずっと緊張し通しなので、一人でやっていた時は、ごはんを食べる元気もないくらいくたくたでした。カフェ・ハーバルスターがなかったら、私は、枯れた枝のように、木枯しに吹き飛ばされて、ぽっきり折れていたかもしれません。そんな私を見かねて、オリオンさんが、手伝ってくれる人を入れた方がいいと、ソランジルさんを紹介してくれたんです」


 そんなことがあったんだ。

 オリオンさんの心遣いは広くこの辺りに行き渡っている。

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