第54話 思い出タマゴサンドとゼリー寄せガスパチョサンド
「では、日本サンドを見てみましょう」
わくわくしながら私とツキヨノさんはカットした断面をのぞき込んだ。
そこには、たっぷりのマヨネーズで会えたタマゴオンリーが顔をのぞかせていた。
そういえば、初めてタマゴサンドを食べたのは家族でドライブに出かけた時だった。
車でお出かけというのがうれしかったのを覚えている。
なだらかな丘、やわらかな木漏れ日、灌木の木陰にピクニックシートを敷いて、高原のさわやかな空気ごと食べたサンドイッチ。
水っぽいきゅうりや目にしみる玉ねぎ、青っぽいパセリなどは入ってない、シンプルなタマゴサンドだった。
そのシンプルさが、まだ未成熟な子どもの味覚にはぴったりだったのだと思う。
今は、キュウリも玉ねぎもパセリもきちんと扱うことで、ゆで卵とマッチするようなタマゴサラダにすることができる。
それはそれで美味しい。
けれど、大人の味覚で感じる整えられた美味しさに慣れても、子どもの頃に味わった最初の味覚というのは忘れられないものだ。
たまごの白身が好きだった私は、二つめを食べる時に、サンドイッチの断面をじっと見較べて、白身の多そうなのを選んだ。
そんな小さな記憶が、よみがえってくるのが、味覚の面白いところだ。
「美味しそうですね」
「では、早速、いただきましょう」
私は、すっかりお相伴気分で、六分の一に切り分けた正方形のサンドイッチに斜めにナイフを入れた。
それから、三角形になったのを、お皿に取り分けた。
「いただきますね」
「いただきましょう」
ツキヨノさんは、パンからタマゴサラダがこぼれ落ちないように、そっとサンドを両手で持って食べている。
ふかふかのパンに、酸味の少ないまろやかなマヨネーズで和えた固すぎないゆでたまご。
たまごは手で割ってありその不揃いさがマヨネーズをまとうとやさしい食感になる。
根を詰めて疲れてきっているツキヨノさんに、まろやかさとやさしさとが染み渡っていく。
次の一角は、トマトスープをベースにしたゼリー寄せガスパチョ。
つまり、スープのフィリング。
濃厚なトマトスープの赤に、小口切りにしたキュウリ、パプリカ、パープルオニオンがのぞいていて、微かなガーリック風味が食欲をそそる。
ゼリーがパンに滲みないようにバジルがはさんである。
レッド、グリーン、ホワイトのコントラストが鮮やかだ。
「色合いはイタリアンだけれど、ガスパチョゼリーだからスパニッシュ? 」
ツキヨノさんは、スペインの国旗を手にして楽しそうだ。
「イタリアンはチーズが使われてるかもしれませんね」
フィリングに何が入っているのかわからないことで、想像力がかきたてられる。
ゼリー寄せなので、比較的すっとナイフが入った。
切り分けてみると断面がきらきらしていて、レイヤーケーキのようだ。
「きれい。食べるのがもったいないみたい」
「眺めてたくなりますね」
二人で眺めていたら、ゼリー寄せの表面に室温で温まったトマト色の汗が浮かんできた。
ぷよんとやわらいで、食べ頃だ。
「不思議な食感」
確かにゼリー寄せはは不思議な料理だ。
固体から液体に変わっていくのを味わえるのだから。
「オードブルはタマゴで、スープはガスパチョ、となると、次は……」
期待に満ちたツキヨノさんの視線を受けて、私は次の一角にナイフを入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます