第47話 白い朝ごはん

「え、と、それから、ハプニング・モーニングって、いったい」


 気になっていたことをきこうとした私の言葉が終わらないうちに、


「ハプニングは突発的に」

「モーニングは朝、そして朝ごはん」


 と声がして、フェザリオンとティアリオンが、わっ、と両手を顔の両側に開いて、私の目の前に現れた。

 正しく“ハプニング”のパフォーマンス。


「上へ下へのハプニング」

「照ったり降ったりのモーニング」


 フェザリオンとティアリオンが、珍しく浮かれた様子でおどけている。

 いつものおすましはどこへやら、だ。


「こちら、ご覧になる。ハプニング・モーニングを特集したの」


 ネコヤヤさんが私的に作っているリトルプレスを差し出した。


 「朝の空気の色よ」と、ネコヤヤさんが差し出したのは、やわらかなグリーン、みずみずしいレモンイエロー、しみわたる水色のペーパーが重ねられた、リトルプレス『millefeuille』。


 表紙はリネンカラーのオフワイトで指先に馴染むペーパ―で、真四角の写真が貼り付けてある。

 写真は、オートミール、レーズン、ドライカシス、ドライラズベリー、スライスアーモンド、ヘーゼルナッツなどが、彩りよく散りばめられたミューズリー。


「香ばしそう」


 私は受け取ると目次に目を通した。



『millefeuille』


 CONTENTS


 特集    ハプニング・モーニング 

 一皿の窓  エッグベネディクトの夜明け

 shop紹介  砂糖菓子の店 ツキ・ホシ・アメ

 exhibition  ワークショップ シリアルA・B・C

 プレゼント カフェ ハーバルスター モーニングサービスチケット


「ハプニング・モーニングは、日本語風にそのまま訳すると思いがけない出来事・朝だけど、この記事によると、その日の朝になって思いがけなくメニューに載る朝食ってことかな」


 私は、特集記事に目を通しながらつぶやいた。


「はい、朝からびっくりプレゼント」

「はい、朝からおなかもびっくりです」


 フェザリオンとティアリオンの声は楽しそうだ。

 びっくりさせるのも、びっくりするのも、楽しいには違いない。

 でも、朝からだと、あんまり刺激が強すぎるものはよくないかな。

 眠気は覚めるかも、だけど。

 そう思いながらページをめくると、そこには、びっくりというよりは穏やかな佇まいのテーブルセッティングが現れた。



 ぽってりとした白い器に、白いお粥、白髪ねぎ、薄くそいだ蒸し鶏の白、松の実、彩りは黄金色の生姜の千切り。

 白い小鉢にはポーチドエッグ、辣油の赤が一滴、そして、すりごまの白。

 ガラスの小鉢には皮をむいたマスカットが、みずみずしく光る。

 テーブルマットはリネンの白で、縁にリネンヤーンで星が散りばめられている。

 水泡の入ったガラスの一輪挿しには、コリアンダーの白い花。

 


「気持ちよさそうな朝ごはん。なんだか、食べずにずっと眺めていたくなるかも」


「こちら、とっておきになります」

「こちら、とっておきになります」


 二人の声のハーモニーが、そのまま辺りの空気を、朝の光に満ちたものに変えていく。

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