第48話 チキンリエットにレモンバターにプレーンピタパン、そして白茶
最初の白い朝ごはんを堪能して、私はページをめくった。
そこには、白から生成りへと移り変わる色合いの朝ごはんの情景が現れた。
洗いざらした白いテーブルクロスには、麻糸で、大きな四つ葉のクローバーが、ランダムに刺繍されている。
三角錐型の焼き物の粉吹きの一輪挿しに、マーガレットが小首を傾げている。
食卓には、ぽってりとした白い小鉢や皿、パンを入れる平たい柳籠、茶器と茶葉を添える豆皿が並び、誰かが朝ごはんの席に着くのを待っている。
とりのささみとエシャロットのリエット。
ひよこ豆をペーストにしたフムス。
刻んだレモンの皮とホワイトペッパーのバター。
クローブでスパイシーさを足したグレープフルーツのマーマレード。
ピタパン、プレーン。
ピタパン、ガーリックオイル付。
白茶、白毫銀針。
お茶の水色は、器の白にうっすらと色を差すくらいのほのかさ。
その白のバリエーションへのこだわりに、ほうっ、とため息が出る。
それにしても、欧羅巴、中東、中国、米国、食材の多様さと組み合わせの妙に感心する。
さらに、ふっと写真の中に入っていきたくなるような朝ごはんの情景の演出には、ため息が出る。
料理はオリオンさんがこしらえたものだろうけれど、テーブルセッティングは、とたずねたら、撮影の時はネコヤヤさんがしたのだという。
自然光とルームライトのマッチング。
光をリズミカルに食卓に踊らせ、陰影は陰影としてその役割をきちんと担わせる。
小さな一葉の写真に、細心の心遣いと惜しみないセンス。
写真に添えられているのは、食卓の簡潔な説明。
ネコヤヤさんの言葉は、的確にそのものを映し出し、受け手に想像の余地を残してくれる。
「ふだんは、フェザリオンとティアリオンが食卓を調えてくれます」
オリオンさんが二人を見て言った。
「朝摘んだお花を飾ります」
「吹いて作ったガラスのコップに飾ります」
二人は、吹きガラスを作る真似をして見せた。
「ガラス工房があるの? 知らなかったです」
「そうでしたか。スエナガさんのお知り合いの方がやってらっしゃいます」
「トンボ玉作りのワークショップは、子どもの頃、フェスティバルで参加したことはあるんです。ちょっと興味があります」
「でしたら、ぜひ」
「はい。後でスエナガさんに場所をきいてみます」
スエナガさんは、意外に顔が広いのかもしれない。
このカフェに集う人たちは、少しずつ謎めいている。
かくいう私も、自分のことは、あまり話したことがない。
落ち込んでいれば、温かな飲みものがサーブされ、話したいなと思う時には、誰かしら会話を始めて沈黙を穏やかに解いてくれる。
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