第40話 タルト懐石 朧月夜タルト

「タルトすし、というか、タルト懐石ができそう」

「そうでね、全体的により小ぶりにして、焼しめの大盤にちょこちょこっと盛ると、美しいわね。桜の季節にパティオでお茶席、いいわね」


 ネコヤヤさんが、すっ、と会話に参加してきた。


「それは、いいですね。桜舞いのお茶席ですか」


 フルモリ青年が同意した。

 彼は、何か思いついたのか、メモ帳を取り出すと、万年筆でさらさらっと何か記し始めた。


「季節にはまだ早いので、今回は使っていませんが、菜の花のタルトもいいですね。黍を混ぜて炊いたごはんをタルト生地にして、菜の花の花びらだけの酢飯を盛り込んで、上には菜の花の辛し和えを飾って。落花生の粉を少しふりかけて」


 オリオンさんが、前にスエナガさんが描いたという菜の花畑のフェザリオンとティアリオンの水彩画を見せてくれた。


「きれいな絵……そっか、菜の花タルトは、たくさん並べたら、菜の花畑ですね」

飛竜頭ひりょうずタルトを添えて、朧月夜ですね」


 フルモリ青年が手を止めて言った。


「美味しそうなお月さま。そっか、炒り卵をタルトとタルトの合い間にまぶしたら、本当に菜の花畑に見えるかも」

「四角いお皿に描くように盛り込んでいくのは、楽しそうです」


 めずらしく、フルモリ青年との会話が続いた。


「飛竜頭、がんもどきだな。うむ、タルトは西洋のものだが、存外、想像力を刺激してくれるものなのだな。こう、しゃべっているうちに、つくりたくなってきたぞ」


 そこにスエナガさんが閃いたとばかりに盛大な独り言を放って、パティオへと出ていってしまった。


「スエナガさん、これから始まるんですよ」


 私が声をかけて追おうとすると、フェザリオンとティアリオンが両手を広げて通せんぼをした。


「スエナガさんの創作の泉が湧きだしました」

「スエナガさんが創作の泉でのどを潤すのを待ちましょう」


 本当に、この二人は、時々どきりとするようなことを言う。

 カフェ・ハーバルスターが、自由な空間、時間が解き放たれている空間だということを、思い起させられる。

 和食の話題が、あまりにも地に足が着いていて、日常的なものだったから、普通の暮らしの延長のつもりになっていた。

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