第17話 ミートパイはマルゲリータの香り
「ちょっと外の空気を吸ってきます」
フルモリ青年は席を立つと、一礼して、パティオへ出て行った。
フェザリオンが、レモンユーカリオイルが香るモスキートキャンドルを、ティアリオンが、テラス席用のマグカップにいれたコーヒーを、パティオのベンチに座っているフルモリ青年に届けた。
スエナガさんは、スケッチブックをとりだして、キャンドルライトにぼんやり浮かぶフルモリ青年の横顔をスケッチし始めた。
「と、とりあえず、いただこうかな」
どうしたらよいかわからず、私は、パイを一つとって、半分に割った。
「あ、サーモン」
半分に割れたパイから、ふわっと湯気がたちのぼる。
「ミートパイは、ビーフミンチをオニオンとガーリックとブラウンマッシュルームのみじん切りと一緒にバターを落としたオリーブオイルで炒めて、全体に火が通ったらトマトソースと白ワインを注いで煮詰めます。最後にカットトマトとバジルを加えて、チェダーチーズをざっとおろして仕上げたフィリングになっております」
と、フェザリオン。
トマトとバジルそれにチーズ、香りはマルゲリータピザを思わせる。
サーモンはまた違う香りがする。
「アニスシード入りのクリームチーズをスモークサーモンでくるんだものがフィリングになっております。オーブンの中で、パイ皮は香ばしく、フィリングはとろとろになって、パイを割った時に一気に美味しさが漂いだします」
と、ティアリオン。
「わぁ、これは、熱々のうちに食べないと」
わたしは、麻のナフキンにペーパーナフキンを重ねて、パイを包んで、パティオに向かった。
「フルモリさん、これ、どうぞ」
わたしは、ベンチに座ってぼんやりしていたフルモリさんに声をかけて、パイの包みを手渡した。
「いい匂いですね」
「あ、匂いしますね、トマトとバジル、ということは、これはミートパイの方かな」
「マルゲリータピザ好きなので、この組み合わせが香ってくるのはうれしいです」
フルモリ青年は、今日、初めて穏やかな口調になって、パイを手にして半分に割った。
「本当だ、ミートパイですね。あたたかいうちに届けてくれたんですね。ありがとうございます。いただきます」
フルモリ青年は、パイを頬ばると、にっこりした。
「落ち込んでいたはずなんですが、美味しいと感じる自分がいます」
美味しいものは、どんな言葉より雄弁に心に届く。
フルモリ青年の笑顔がその証だ。
わたしも、持ってきた食べかけのサーモンパイを味わった。
「ネズさんが食べているのも、美味しそうですね」
ミートパイを食べ終えたフルモリ青年が言った。
「美味しいですよ。パイも美味しいし、ブリオッシュも美味しそうでしたよ」
「ブリオッシュは、きれいでしたね。サラダのゼリー寄せが入っていて」
フルモリ青年は立ち上がると、
「ごちそうさまでした。続きも食べたくなりました」
とわたしに言って、コーヒーの入ったマグカップを持ってカフェへもどっていった。
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