第10話 焼野菜とチーズ、ツナとリンゴとクルミのサラダ

 それからオープンサンド。

 オープンサンドは、2種類。


 焼野菜とチーズ。

 ガーリックバターを塗った斜めにスライスしたフランスパンに、オリーブオイルで焼いたズッキーニの緑、ナスの紫、トマトの赤、パプリカのイエローが彩りよく重ねられていて、その上に、ゴーダチーズがブランケットを掛けるようにたっぷりと。

 焼き上がりにはお好みで、ブラックペッパー、岩塩、クミン、チリパウダーなどのスパイスをひとふり。


 ツナとリンゴとクルミのサラダ。

 ツナとリンゴとクルミのサラダは、横半分にカットしたやわらかな白い丸パンとの組み合わせ。

 サラダは、ツナとくし型切りのリンゴとみじん切りのクルミを、卵を使った料理に合うハーブのエストラゴンを刻んで加えたビネガーのきいた自家製のマヨネーズで和えてある。

 エストラゴンは、やわらかで品のある香りを添えている。


 パンの皿の脇には、季節の自家製ピクルス。

 ミニキュウリ、ミニキャロット、カリフラワー、セロリ、など。


 野菜がメイン食材なのに、全体的にボリューム感がある。



「どっちから食べようかな。美味しそうで迷ってしまう」


「どちらでもお好きな方からどうぞ」

「お好きな方からおめしあがりください」


「うーん、でも、味の濃さとかにおいの強さとかで、食べる順番がありそうな気もする」


 フェザリオンとティアリオンは、顔を見合わせてうなずきあった。

 それから、声をそろえて答えてくれた。


「焼野菜とチーズの方は、パンにガーリックバターが塗ってあります」

「なので、ガーリックのにおいがお口に残ります」

「美味しい香ばしいにおいです」

「ツナとリンゴとクルミのサラダのマヨネーズには、エストラゴンが刻んであります」

「なので、焼野菜とチーズを先に食べると、エストラゴンの繊細な風味があまり感じられないかもしれません」

「こちらを味わってから、焼野菜とチーズに進まれると、いずれも堪能できます」

「もちろん、これは、一つのご提案です」

「ご提案です」


 なるほど。

 わかりやすい二人の話に納得して、サラダの方から食べることにした。


 皮付きリンゴのしゃくっとしたさわやかさ、軽くあぶったクルミは刻まれて香ばしさを増し、エストラゴンの洗練された風味の加わったビネガーの効いたマヨネーズが、それらと淡泊なツナをまとめあげている。

 エストラゴンは普段あまり口にすることのないハーブだが、独特の品のいい甘さがあって匂いもきつくなく、控えめながらの自己主張は心地よかった。


「エストラゴンって、もっとくせがあるのかと思った。スパイスとは違った味わいを出してくれるのね」


「はい。ハーブは、香り草。草なので、野菜と自然になじみます」

「はい。ハーブは、香り草。香りがたつので、お肉やお魚の味をひきたてます」


 なるほど。

 うなずいて、焼野菜とチーズに移る。

 こちらはフランスパンが使ってあるせいか、オープンサンドというよりタルティーヌと言いたくなる風情だ。


 まずは、そのまま、ひと口。

 ガーリックバターが、焼野菜の甘みと相まって、香ばしさを際立たせる。

 そこにとろけかかっているゴーダチーズが、こくを増して美味しさを包み込む。

 

 ひと口めをゆっくりと味わってから、ふた口めは、クミンシードと岩塩をぱらっとふってみた。


 ほんの少しのハーブスパイスで、味わいは変幻自在だ。


「ごちそうさま。とても美味しかった」


 自然と口をついて言葉が出た。


「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 フェザリオンとティアリオンが、うれしそうにお辞儀をした。


「食後のお飲み物はいかがいたしますか」

「お食事の方には、お飲み物はサービスになっております」


 こんなに美味しくて、飲み物がサービスなんて。

 このカフェに、根が生えてしまう。


「コーヒーをお願い。あ、カフェオレにしよかな、ホットで」


「カフェオレですね。承りました」

「カフェオレ、ホットですね。承りました」


 食事の皿が下げられて、食後のカフェオレが運ばれてきた。


 いつしか、夜の音楽が、低く静かに流れていた。


 


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