第44話 奇人変人揃い踏み
シャイターンより強くなるためにイタリアで修行していた”人間発電所”ことブルーノが再び僕の目の前に。
しかも強烈な新必殺技を引っさげて。
「思ッタより早く必殺技ヲ習得したので、二学期が始まる前に日本に戻れましタ」
ブルーノは言った。
ややアクセントがイタリア訛りだがそこはご愛嬌。
「何にせよ助かったよ、ありがとう。しかしあの遠距離から大勢に電撃をお見舞いする新必殺技は凄かった。名称はもう決まっているの?」
名前は大事だ。
「名付けて”ブラックサンダー”」
「それじゃお菓子の名前だよ」
歩きながら話していると、僕の家に到着した。
「さあ、上がってくれ。両親は二人だけで夫婦水入らずの旅行に出かけているから遠慮することはない」
「オジャまします」
ブルーノを自分の部屋に案内し、今までの経緯を説明した。
彼も大体の事情は把握していたようだった。
「いずれはこの家も狙われかねないし、待っているのは性に合わない。そこで今から新火盗の奴らに仕掛ける。手伝ってくれ」
ブルーノにipad miniを持たせ撮影をしてもらった。
僕は般若の面を被ってカメラの向こうの新火盗に語りかけた。
もう僕の素顔は一部の人々にバレているが、それでもこの顔を晒すのは抵抗がある。
「やあ、
しゃべっている内にのどが渇いたので、カメラに映らないよう般若の面を外してキンキンに冷えた缶コーラを一気飲み。
再び般若の面を被って宣戦布告の続きを始めた。
「すまない、のどが渇いてね。ええと、なんの話だったっけ。あっ、そうだ。いい加減待ち、ゲエ~ップ、くたびれたからケリをつけよう。日時は明日、ゲッ、の23時。場所は無関係のグエェップ、野次馬が来ると厄介だから暗号、のさ言葉で。にのさしふのさじこうのさゲッこのさう、グのさゲッラウのさンドで。来なきゃそれまでのウップ連中だと思い、もう相手にゲエ~ップ、しない。たくさんのゲップを失礼した。以上」
「ふう、コーラじゃなくて麦茶にするべきだったかな」
失敗を悔いたがもう動画は投稿してしまった。後は奴らがこの動画に気付いてくれるといいのだが。
「ズイブンと強気の宣戦布告でしタネ。勝算ハ?」
心配したブルーノが聞いてきた。
「そんなの奴らがグラウンドに
「アッ、ワタシのブラックサンダーは3日に一度しか使えまセン。電力ヲ蓄える時間が要リマス」
「えっ! て事は決戦が明日の夜だから必殺技は使えないのか。いや、大丈夫。あんな奴ら、軽く蹴散らしてやる」
精一杯強がったが正直困った。話が違う
あの必殺技を目の当たりにしたから強気になったのに。
気を取り直して二人でゲームをしたりマンガを読んだりしていた。
賽は投げられたのだ。
ジタバタしてもどうしようもない。
ふと、外を見ると日が沈もうとしていた。
その時、
”ピンポン、ピンポン”
チャイムの音が二回した。
新手の襲撃者かッ!?
念の為、ブルーノと二人で玄関に行きドアを開けたらアッキーこと
これはまた意外な人物。
「ブルーノもいるなら丁度いい。今から私について来て」
ゲームやマンガにも飽きたのでおとなしく彼女について行った。
「さっきの宣戦布告の動画、見たけど最低ね。特にゲップをしながらのさ言葉で決戦の場所を言うところ」
心底呆れた様子で彼女は言った。
「でも般若の面はイケてたろう」
僕は言い返した。
「いいこと、私は軍師になったし、ブンゴはリーダーになったの。しっかりしてちょうだい」
「何の話だ?」
「”口車のペラ”の口車にあえて乗っかってみただけ。行けばわかる」
連れて行かれた先は駅前の和食居酒屋。
大型の個室に入ると見知った顔が何人もいた。
まずはスネ夫のママ、じゃなくて”口車のペラ”が出迎えた。
「久しぶりね、ブンゴちゃん。あなたの男らしい決断に協力するわ。皆んな、
”口車のペラ”はペラペラと言った。
「よう名探偵、元気そうじゃねえか」
そう言ったのは、口から見える歯が全て銀色に輝いている筋肉質で角刈りの男。
確か”マングースの万次”だっけ。
「別に『
「ヒヒヒ、燃やす。新火盗の連中をバーベQ。ヒヒヒ」
そう笑ったのは顔半分に火傷の痕が目立つヒョロリとした男。
こいつは確か”火付けのレッド”だ。
火炎放射器を背負っているから間違いない。
「呪う。”
ノーメイクで髪の毛はボサボサのバサバサ。ほうれい線がしっかりと出ている疲れ切った中年オンナがブツブツとつぶやいていた。
彼女は”恨み節のマーサ”だ。
「やっと見つけた。私の運命の人。前世でも前前世でも私達は一緒だった。今生でも添い遂げます」
そう言って僕の横にいたブルーノに抱きついてきた若い女性は顔立ちも整っているが目の焦点は定まってない。おまけによだれを垂らしている。
彼女は”電波のキティ”だ。
ブルーノが軽く電気を流すとキティは失神した。
「あら、ウチのキティが失礼したわね。でも、口だけが上手い私も、恨み節を言うしか能がないマーサも、惚れっぽいキティも神の御業は受け入れてくれた。あんなくだらないところでも”
ペラは涙を流していた。
ここでようやくブルーノが自己紹介をした。
「アラ、大きい。ウチのフランケンといい勝負ね」
ペラの言うとおりだった。
「フンガアッ」
全身を包帯に巻かれた身長2メートル近い大男が叫んだ。
かつて、たましずめ組の事務所に殴り込んできたフランケンだ。
「彼は”女帝”と”総裁”を新火盗から守ろうとしていたんだけど力及ばず……。悔しかったでしょう」
「フンガ、フンガ」
ペラの言葉にフランケンは頷いた。
「おい、負け犬。俺様を覚えているか?」
そう言ったのは銀髪のモヒカン刈りで顔半分にはタトゥーあり。三白眼。
西洋風の
「忘れるもんか、”湖の騎士・ランスロット”だろ。もう釈放されたのか?」
「すぐに娑婆に出れたのは俺様の親父がそれなりの政治家だったからさ。もっとも新火盗の奴らに裸にひん剥かれちまったがな。けじめは付けさせてもらう」
「まあ、頑張れ」
適当に流した。
どうもフランケン以外の連中は幸か不幸か、新火盗の襲撃時に居合わせなかったらしい。
そして、僕は一番気になる存在に声をかけた。
「コラッ! 食い逃げ野郎、今ここで金を払え!」
「あれはシャイターンのせいさ。しかしもはや私にシャイターンは憑いていない。もうあの力は使えないんだ。せめてもの罪滅ぼしにブンゴの決闘に協力をするし、この店の支払いも全額私が持つ」
「さすが風間先生。ボクはただついていくだけです」
そう言った風間の肩にしなだれかかったのは
”パン! パン!”
アッキーが頭の上で手を叩いた。
「そろそろ作戦会議に入りましょう。決戦は明日の夜だから時間がない」
「そうか、アッキーは軍師だっけ。でもなぜ僕がリーダーなんだ? 僕の言うことなんか聞くような連中とは思えないし」
疑問を口に出した。
「神輿は軽いに限るッ」
「違えねぇ」
ランスロットの声に万次が応えた。
”ドッ!”
個室の中が笑いで湧いた。
「まず敵の正体だけどよくわからない。したがって目的もよくわからない。戦力に関しては今明らかになっている事を説明する。奴らは順調に構成員を増やしてきたわ。その数およそ50人。そして要注意なのは”首斬り朝”こと
アッキーが説明した。
「あれだけのことをやってのけるのだから強いに決まっている。だが安心してくれ。奴らが調子に乗ってアップした動画を見ていたら奴の弱点に気がついた」
「その弱点とは何だ? ブンゴよ」
風間が聞いてきた。
「後でアッキーと作戦を詰めてから当日伝える」
ブーイングが個室内に響いた。
しかし今は教えたくない。
この弱点も僕だけの思い違いかもしれないし、作戦は反対されそうだから当日に無理やり遂行させたい。
「ねえブンゴちゃん。私達”三美神”も決戦に参加していいのかしら。あまりお役に立てそうにもないんだけど」
寂しそうにペラが言った。
「ぜひ参加してください。美の女神が、それも三人も味方についてくれればそばに居てくれるだけで心強い。あなた達の居場所はこの場にあります」
「ありがとう。ありがとう」
ペラは何度も礼を言った。
本当はいてもいなくてもどっちでもよかったのだが、断るに忍びなかったのだ。
ここで決戦に参加するメンバーを整理する。
”人間発電所”ことブルーノ・サンマルチノ。
プロレスラーのようなガタイ。電撃攻撃可能。
”口車のペラ”
とにかく口が上手い。”三美神”のリーダー格。
”恨み節のマーサ”
何かあると敵を呪い出す。”三美神”のメンバー。
”電波のキティ”
惚れっぽい。”三美神”のメンバー。
”マングースの万次”
鉄製の入れ歯の持ち主。蛇系の憑物落としには滅法強い。
”火付けのレッド”
常に火炎放射器を背負っている。近づくと火傷しそうな危ない男。
”フランケン”
フンガーしか言えない怪力の大男。どうも”女帝”のボディガードだったらしい。
”湖の騎士”ことランスロット
”ムチ使いのムッチー”こと遠藤睦美。
鮫の歯を縫い付けたムチを両手にそれぞれ持ち、無茶苦茶に振り回す”ムチ
”アッキー”こと黒田明子。
とにかく腹黒い。落とし穴が得意。
”
シャイターンの力はもう使えない。食い逃げ野郎。
最後に、”
この中でまともなのは僕だけだ。しっかりしなければ。
以上、総勢12名が明日の23時、西富士高校のグラウンドで戦う。
「なあ、12人いるわけだがこのユニット名はどうする?」
ついうっかり聞いてみたのが間違いだった。
「12使徒」
「12神将」
「ギリシア12神」
「12モンキーズ」
個室内は
僕は好きな映画から『12人の怒れる男』を提案したが例によって相手にもされなかったのは言うまでもない。
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