最終章 今日もどこかでたましずめ
第43話 各人各様の行動
●
この神出鬼没のイカれた集団は、その後もやりたい放題だった。
手を変え品を変え撮影した動画を投稿したり、TV局に送りつけたりしている。
その内容は、常に要モザイク。
天誅、成敗、世直しと称し哀れなターゲットを裸にひん剥き縛り上げ動けなくした上で罪状を読み上げる。
ただし、それ以上のことはしない。
それにターゲットになる者は、大から小までこの世のクズばかり。
大物は、新興宗教の教祖、ブラック企業の社長、悪徳政治家、天下り外郭団体の役員など。
小物は、自分の生徒に手を出した小学校教師、芸能界のご意見番、カツ丼やカツカレーのカツが冗談のように小さいカツを出す食堂の親父、態度の悪い役所の小役人、お年寄りを専門に狙う新聞拡張員など。
「この目を背けたくなるような醜い裸を晒すのが罰であり社会的な死である」
裸にひん剥いたターゲットを、汚いものを見るような目で見ながら。
やがて侍の格好をしたコスプレ集団は画面から
一日一回動画を挙げるハイペース。
なるほど、僕の井上エクスカリバーを分捕りに来る暇がないのもうなずける。
マスコミは初めこそ面白がっていたが、自分達もターゲットになっていると後に気付いて新火盗改を叩き出したが時すでに遅し。
日本国民の大多数はこのニューヒーロー集団を圧倒的な熱気を持って迎え入れた。
日々、虐げられ奴隷のように扱われ行き場のないストレスを抱える多くの人たちは世直し集団の動画を見ることで溜飲を大いに下げた。
「いいぞ、もっとやれ!」
「自分も新火盗改に入りたい」
「次はあいつに天誅をリクエスト」
「”本所の銕”様って苦みばしっていい男」
こんな声がほとんどであり、けしからんという意見は皆無だった。
●シバの女王こと
「まあ、何とかマスコミを抑えている。だからあれ以来ブンゴのフルネームはTVや週刊誌には出ていないだろう」
「とは言え、一部ネット上ではバレ始めていますよ。高校の名前まで出された以上は柴先生だって他人事じゃないでしょう!
「前にも説明したが、蛇の目という組織は日本を脅かす邪神を防ぐための秘密機関だ。我が組織は静観を決め込んでいる」
「蛇の目のメンバーが公安や警察にいると聞きましたが? 僕にSPは付かないんですか?」
「ブンゴは一般人だからSPは付かないぞ。警察や公安はもちろん早く捕まえろと上からせっつかれている。しかし現場の本音としては、『クズ同士つぶし合ってくれ』というのが本音のようだ」
「で、僕はどう身を守れば?」
「担任として言えるのは、なるべく外を出歩かないように。それと何かあったらすぐに警察に連絡をすることだな」
「……クッ」
通話はそこで終わった。
ダメだ、あの先生は頼りにならない。
怒りのあまり、スマホを壁に投げつけた。
アニメ声なのが余計に腹立つ。
●テキサスの荒馬ことテリー組長の行動。
”ムッチー”こと
”アッキー”こと
それぞれの両親は”神の
ダメ押しにテリー組長がそれぞれのご両親の洗脳を解いた。
「やっとパパとママと一緒に暮らせる……。グスッ」
ムッチーが泣いている。両親と抱き合って。
「もう怪しげなのに引っかからないで、これからは私だけを、ヒクッ、ヒクッ……」
アッキーも泣いている。両親に抱きつかれて。
ついでに僕も泣いてしまった。
やっと夢にまで見た親子水入らずの生活に戻れる少女たちの胸中は如何ばかりか。
僕はテリー組長を誇りに思う。心から。
「ブンゴも賞金首を賭けられた事はそんなに気にしなくていい。もう話は付けてきた」
テリー組長がドスの利いた声でこともなげに言うので、詳しく話を聞いてみた。
要点をまとめると、裏社会の大物に『若い衆がブンゴを襲わない』ことを確約させたとか。
「前に貸していたから返してもらっただけだ」
言葉少なげにつぶやいたので、あまりこの件には触れない方がいいだろう。
しかし、どんな貸しがあったのだろうか?
正直、気にはなる。
また、
「裏の社会は上意下達が徹底している。だからブンゴを襲ってくるのは金に目がくらんだ一般人か、もしくは組織に属さない
と、テリー組長は僕に言ってくれた。
なんて頼りがいのある人なんだろう。
僕の担任とは大違いだ。
これで枕を高くして眠れる。
●
そんなわけで僕は今、金に目がくらんだ一般人の集団に囲まれていた。
「おとなしくその井上エクスカリバーを渡せ。首までは取らないから安心しろ」
集団の一人が僕に言った。
大手マスコミでは僕の高校や名前は出てないが、ネット上では顔写真から住所までバレていた。
「コイツの生首もセットで持ってけば600万円だ。
そう発言した奴は、この中ではメガネをかけていてインテリっぽい感じがした。
だから交渉を試みた。
「待て待て。確かにアイツは600万と言ったが600万円とは言っていない。ペソかもしれないしジンバブエドルかもしれない。もしかしたら通貨単位ではなくピコキューリーなんて可能性も、グッ、止せ」
奴らは石を投げてきたので交渉は決裂。
井上エクスカリバーを無茶苦茶に振り回してなんとか囲みを突破して脱出に成功。
道に従って真っすぐ走っていくと大きな影が待ち構えていた。
「フハハハハ、キツツキ作戦大成功。オレは”武蔵坊”ことベンケイ。刀狩りは趣味みたいなもんだ。許せ」
なるほど、見るからに弁慶の格好だった。
薙刀を構えて仁王立ちをしている。
また変なのが出てきた。
前にはベンケイ、後ろには一般人の集団。
絶体絶命!!
その時、紫電一閃、
電撃か!?
ベンケイも一般人の集団もプスプスと多少焦げて倒れている。
こんな芸当ができるのはアイツしかいない。
だから道の向こうからやってくる彼に挨拶をした。
「おかえり、ブルーノ」
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