第41話 三美神の誘惑
温泉での顛末を報告し、たましずめ組事務所を退出する際、
「ブンゴに忠告。女難の相がかなり強く出ているから気をつけろ」
と、
僕とはあまり仲は良くないが、政界、財界、芸能界に顧客を持つ凄腕占い師。
「ありがとうございます。でも僕の抹殺指令が『神の
そんな感じで鼻をすすりながらうそぶいて相手にしなかった。
気にしてもどうしようもない。
それよりも湯疲れの影響か、風邪気味で鼻水が止まらない。
病院はお盆なので軒並み休診。
薬局に行くか、家に帰って早く横になるか。
そうだ、『魔女のダイニング』に行こう!
最近オープンした”魔女のダイニング”は魔法をモチーフにした洋食屋で、スタッフも綺麗どころを揃えているそうな。
だからミコミコも厳しい条件をクリアし、ホールスタッフに採用されたのだ。
可愛い制服を着たミコミコを見れば、僕のくしゃみ、鼻水、鼻づまりはすぐにでも良くなるだろう。何よりの薬だ。
雰囲気のある門を通って隠れ家のような店に入ると、カウンター席に案内された。
今日はお盆のせいか昼前なのに客は僕一人。
ミコミコは午後1時からのシフトだと聞いている。
風邪に効きそうなハーブティーを注文すると、
「魔女の魔法にお任せ」
と魔女のコスプレをしたウエィトレスが大きな声で言った。
本当に任せて大丈夫なのか?
お茶が来るまでスマホをいじっていたら、店の中が騒がしくなった。
おばさんの客が三人ほど入ってきたせいだ。
四人がけのテーブルに案内されたおばさん集団。
その内の一人が僕の顔を見ると突然立ち上がりツカツカと僕の背後に近づき、
「ねえ、私達と一緒にお茶しない? 神の
と言った。
神の御業!
その名を聞いては無視できない。
僕は彼女たちのテーブルに移った。
「ここのオーナーのアンジュとは茶飲み友達なのよ。だからこの店は今から貸し切りよ。さあ、ブンゴちゃん。たくさんお話しましょうね。アラ、自己紹介がまだだったわ。私は”
さっきから一人で喋っている女性はそう自己紹介した。
僕の真正面に座っている彼女の容姿を例えるならスネ夫のママ。
これで”ザマス”なんて語尾だったら笑い死ねる自信がある。
”
しかし待てよ、アンジュだって?
どこかで聞いたような名前だがまさか……。
「ブンゴめ。お前のせいで、お前のせいでッ、風間様はッ! 恨めしい。呪ってやる、末代まで。ヒイィィン」
口車のペラの横に座っている女が恨み節を言うと泣き始めた。
ノーメイクで髪の毛はボサボサのバサバサ。ほうれい線がしっかりと出ている疲れ切った中年オンナという印象。
「彼女は”恨み節のマーサ”よ。根は悪くないから安心してね。でも早速女を泣かすなんて罪な人ね」
ペラがマーサのフォローをした。
根が悪い、悪くないの問題なくしてもマーサはおかしい。
”恨み節のマーサ”が三美神の二人目。
「やっと見つけた。私の運命の人。前世でも前前世でも私達は一緒だった。今生でも添い遂げます」
僕の隣りに座っていた女が腕を絡ませてきた。
「彼女は”電波のキティ”よ。アラアラ、ブンゴちゃんったらモテモテね。私ももう少し若ければねぇ」
ペラが紹介したキティはこの中では一番若く見えるし顔立ちも整っている。しかし、目の焦点が定まってない。おまけによだれを垂らしている。
”電波のキティ”が三美神の三人目。
「それで話とは?」
戸惑いながら訊いた。
「アラ、せっかちね。そんなんじゃモテないわ。私達、やっと苦労して尾行してお話できる機会を得たのだからまったりしましょう。ああ、そんな困った顔してカワイイわぁ。そうだ、ブンゴちゃんってピンチになると素っ裸になるって聞いたけど本当なの? ちょっとここで脱いでみてよ。貸し切りの札は表にぶら下げたから大丈夫よ。ねえ、お願い」
ペラがとんでもない事を言い出した。
くそっ! 僕の十八番が読まれている。
機先を制されたのでもう全裸になっても効き目はないだろう。
「はっ、裸っ。若い男のっ! ぬっ、脱がないと呪う。ぬ、脱げっ、ウシャシャシャ」
マーサは息を荒げて興奮している。
その時、
「ブンちゃん?」
と、ミコミコの声がした。
声のした方へ振り向こうとしたら、僕の頭は隣の席から伸びてきた手にガッチリとホールドされた。
そして顔をキティの方に向かされたと思ったら、強引にディープキスをされた。
「ねえ、式はいつ挙げようか? 海の見える丘に家を建てて、男の子一人と女の子一人、それに柴犬を一匹。ウフフフ……」
信じられない行動をするキティ。
頭がついていかず固まる僕。
「ブンちゃん……」
目に涙をいっぱいためてミコミコは店を飛び出していった。
ちくしょう、こいつ等!
もしかして、これが女難なのか?
「アラアラ、青春ねぇ。ではそろそろ本題に入りましょう。実は、私達にもブンゴちゃんの抹殺指令が下ったわ。そこで対象者のあなたを調べたら驚いたわ。かなり強いのね、ブンゴちゃんって」
ペラが言い終わると、テーブルにお茶が運ばれてきた。
怒りを鎮めるために一口すする。
「私達だってバカじゃないわ。もう先のない神の御業は捨てて独立するつもりよ。だからね、ズバリ、三美神の下に就きなさい。今なら幹部にしてあげるわ。給料だって今の倍、いや三倍は保証してあげる」
「二つ名の通り、ペラペラペラペラとよく喋る。口だけでなら何とも言えるぞ、スネ夫のママ」
怒りを抑えるのも限界になってきた。
「ンまぁ、人が気にしている事を。でも、テリーは昔からケチで有名なのよ。三美神と食事しても必ず割り勘だったし。たましずめ組なんてケチな組織は辞めてさっさとウチに来なさい」
口車のペラが言った。
「テリーはケチ。恨めしや。だから呪う、もう呪った。オロロ~ン」
恨み節のマーサはテリー組長を呪った。
「ねえ、さっきの女は誰? 浮気はだめよ」
電波のキティが僕に指を絡ませてきた。
僕の中で何かがキレた。
多分、自制心と呼ばれるものだ。
「まあ、返事は今すぐでなくてもいいわよ。よく考えてちょうだい」
「いや、お待たせしちゃ悪い。今ここで返事をしよう」
言ってすぐに僕は椅子から立ち上がった。
口の中に唾をため、マーサの顔に向けて勢いよく吐き出したら彼女の目に命中した。
「ギャッ」
目を押さえ悲鳴を上げるマーサ。
「今のはテリー組長を呪った分だ。唾には魔除けの霊力があるのは知っているな」
次にキティの後頭部を掴み、彼女の顔面を僕の尻に押し当て”ブバッ”と屁をお見舞い。
「クッ、クッサぁ~」
鼻を押さえながら床に横たわるキティ。
「今のはミコミコを泣かした分だ。本当に僕が好きなら僕の屁の臭いを堪能しろ」
残るは一人。
鼻の穴を真正面のペラに向ける。左の小鼻を押さえ”フンッ!”と右の鼻から手鼻を飛ばした。
粘っこく黄色い濃密な鼻水は僥倖にもペラの口の中に飛び込んでいった。
「オッ、オエ、オッエェェ~」
下を向き激しく嘔吐するペラを見て、ようやく溜飲が下がった。
「今のはテリー組長を貶め、信頼関係を壊そうとした分だ。ざまあみろ」
僕は勝鬨をあげた。
僕とテリー組長の鉄の絆が女どもの誘いなんかで壊れるものか。
鼻水鉄砲、勝負あり!!
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