第16話 覚悟の差
「お色気作戦成功。ムッチーの格好に目を奪われ敵は初動が遅れたわ。孫子曰く、勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求める。さあ、ムッチー。いつものようにやっちゃって!」
体育館の入口の扉をガードしている黒田さんが遠藤さんに叫んだ。ムッチーとは
「オッケー、アッキー! ボクのムチをたっぷり味わえ」
アッキーとは
それにしてもムッチーとアッキーか……。売れないお笑いコンビみたいだ。
なんて思っていたらムチは僕の手首を直撃。たまらずカバンを落とした。骨が砕けたような衝撃。次は両ヒザにヒット。ズボンは裂け、皮膚も裂け、四つん這いの状態になってしまった。
このままではいけない。最大のピンチを迎えているが為す術がなかった。
「死ぬ前に教えてあげる。ムチの攻撃は音速を超えるし、ムチ打ち刑で死ぬ人もザラにいるわ。そして体育館には誰も来ないよう工作済みだからもう詰みね」
アッキーが勝ち誇って言った。
「さっきキミは教室ではしゃいでたね。『人を殺したかったら自分の手を汚す覚悟をしろ』って。ボクは風間先生のためならいつでも死ねる。ボクは風間先生に仇なす者をいつでも殺せる」
ムッチーがムチをふりふりして言った。
彼女たちは本当に僕を殺す気らしい。ムッチー&アッキーの息はピッタリだった。作戦はアッキー。ムチ攻撃はムッチー。荒事に慣れている様子だ。
とにかく井上エクスカリバーをカバンの中から出さなければ。しかしその機会はなかなか巡ってこない。
勝利を確信した二人はより饒舌になっていく。
「よくも風間先生の計画をダメにしたな。死人か廃人になる前にボクの二つ名を名乗ってあげる。退魔組織『神の
「私も二つ名を名乗りたいけど残念なことにまだもらってないの。ここで実績を残したら組織は私に二つ名をくれるはず。あなたも二つ名があるなら名乗りなさい」
ムッチー&アッキーは頼みもしないのに正体を現した。
二人は色々と気になることを言った。確か神の御業ってテリー組長が抜けてきた組織だったような……。
自分の情報をさらけ出すのは気が引けたが、これはチャンスだ。素早く足下のカバンから井上エクスカリバーを取り出し構えた。
「たましずめ組見習い、
ムチが井上エクスカリバーに巻き付き絡め取られ、ムッチーの手に渡ってしまった。
まだ名乗りの途中だってのに。
「こんなおもちゃの剣でボクを相手にしようだなんて。ナメんなァッ!」
ムッチーは井上エクスカリバーを下に放り投げ、またビッシビシとムチで襲ってきた。
「フン、期待はずれだったわね。あなた、もっと孫子を勉強すれば楽しめたのに。おもちゃの剣で意表をつこうなんてナメられたものね。ムッチー、そろそろ終わらせましょう」
「言われなくても終わらすんだからッ」
アッキーとムッチーは本当にいいコンビだ。カバンでムチの攻撃を防ごうとしたらそれも絡め取られてムッチーのはるか後方へ飛ばされてしまった。
状況は圧倒的不利。だから考えろ、思い出せ。たましずめ組での経験は伊達じゃなかったろ、と自分を鼓舞した。
さっきからアッキーが言っている孫子は今にも通じる大軍師だが、負けたことだってある。孫子の兵法は特に学ばなかったが印象的だったので覚えている。
常勝で負け知らずの孫子率いる軍は、敵対する軍の常識はずれの行動に驚き動けなくなり敗退したという。
その驚きの行動とは。
死刑囚を軍の最前線に連れていき号令と共に死刑囚は自らの首を切る。残した家族にお金を与える保証と引き換えに。
論理的に考える孫子は論理的でない行動に弱かった。
ああ、そうか。初めにテリー組長が教えてくれていたじゃないか。
”常識外の突飛な行動を取り、驚かせ、感情をゆさぶれ”
今になってやっと思い出す自分のマヌケぶりに呆れたが、ここから僕のターンだ。
まず全裸になった。早脱ぎには自信がある。慣れているから。天もご照覧あれ、この堂々としたフルチン姿を。
ムッチー&アッキーは一瞬だけ驚いたが、
「汚いものを、早くしまえ」
と罵声を浴びせるアッキー。
「今まで見た中ではお粗末な方だね」
と男に対してトラウマレベルになる言葉の暴力をふるうムッチー。
ムッチーがムチで攻撃したが多少動揺しているのだろう。キレが甘い。僕は飛んできたムチに脱いだ制服をわざと巻き付かせた。
そしてムチを掴み綱引きの要領で引っ張る。男の力にはかなわない。
僕はムチを急に手放して、ムッチーのところへ走った。
彼女もムチを手放し正拳突きを放ってきた。
ヒザをムチで打たれていたせいか
その際、僕の両手はムッチーの両肩にかかった。ボンデージ衣装を掴みながら倒れると胸元のヒモははずれ、衣装はひん剥かれ、胸が露わになった。
「クッ! この変態!」
ムッチーは胸を両手で隠した。今がチャンス!
僕は足下の井上エクスカリバーを拾い上げ
バチバァチィッ!!
火花が散り、ムッチーはうつ伏せに倒れた。気絶したようだ。
それを見ていたアッキーが逃げようと体育館の扉に走った。
それを見逃す僕じゃない。
井上エクスカリバーの
アッキーはガクッとヒザを折り放心していた。よく見ると失禁もしている。
僕の勝ちだが、まだ終わっていない。カバンからスマホを出し失禁したアッキーを撮影した。
「お漏らし少女は僕の性癖としてはナシなんだけど、生命が狙われないための保険だ。勘違いしないでくれ」
誰も聞いていないが言わずにはいられなかった。
言い訳をしているみたいでおかしくなりプッと吹き出した。
次にうつ伏せになっているムッチーを仰向けにしてスマホで撮影をした。
「SM嬢は僕の性癖としてはナシなんだけど、生命が狙われないための保険だ。勘違いしないでくれ」
敗者の無様な格好を記録するのは義務であり勝者の特権でもある。さらに戦利品としてムチと羽毛扇をカバンの中に入れた。
体育館を去る前に、ムッチーの胸を見ながら勝利を宣言した。
「ムッチーも全裸になる覚悟があれば、僕に負けることもなかったのに。その差が勝敗を分けた。
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