第15話 危険なお誘い

 久しぶりに制服を着た。

 ゴールデンウィークは昨日で終わり、今日から僕は学校に戻る。

 休み明けというよりは、引きこもり明けというべきだろう。


 そんなわけで僕は通学路を歩いていた。

 ミコミコと待ち合わせ場所で合流し一緒に登校する。

 と、突然後ろから大きなクラクションが鳴った。振り返ると高そうな外国車。窓からテリー組長が顔を出し、

「二人とも学校まで送るから乗るんだ」

 と僕たちに言った。

 断れるわけもなく車の中へ乗り込んだ。


 テリー組長の装いはいつものように恰幅のいい体をスーツで包み、短髪、口ひげ、サングラスという出で立ち。極道風ではあるがけっしてそんなことはなく、優しく頼れる僕のいとこだ。


「ありがとうございます。でも何故わざわざ車で送ってくれるんですか?」

「ブンゴの学校に興味があってな。それだけだ」

 僕の疑問にテリー組長は簡潔に答えた。


 やがて車は校門の前で止まった。

 全員、車から降りた。テリー組長は西富士高校の校舎や運動場、そして登校して来る学生たちを厳しい目でにらんでいた。

 僕たちはとても目立っていた。皆の視線が痛かった。

「テリー組長、大変ありがとうございました。それでは元気に行ってきます」

 ミコミコの手を握って急いで玄関へ向かおうとしたら、

「ブンゴよ、わかっているな。ブンゴを苦しめた元凶をキチッと始末してこい。組の看板に泥を塗ることは許さん。けじめを付け次第、事務所に来るんだ」

 テリー組長はドスの利いた声で僕にそう言うと車に乗り込み去って行った。

 今のやり取りを遠巻きにしかも興味深げに皆から見られていた。


 ミコミコと二人で二年一組の教室に入った。僕たちはクラスから嫌われているが愛があれば大丈夫。


「よう皆、久しぶり」

 明るく挨拶をしたら親友の相馬そうまが近づいてきて、

「その、ブンゴとさっき一緒にいたとっても怖そうなお方は誰なんだ? 組長って呼んでいたが」

 と聞いてきた。

「ああ、テリー組長か。僕のいとこだよ。今度新しく組を立ち上げたんで僕はその構成員になったのさ」

「つまり、君はもうそっちの世界に入ってしまったんだね……」

「うん、裏の世界ではまだ見習い扱いだけどね。もしよければ今度事務所に遊びに来なよ。歓迎するから」

 僕の誘いに相馬は全力で首を振った。


 この会話が終わると教室がシンと静かだったことに気が付いた。どうやら皆は聞き耳を立てていたに違いなかった。

 教室を見渡すと、皆が僕から目を背けた。イジメではなくそのすじの人とは関わり合いたくない、という感じではある。誤解を解くのも面倒なので、勝手にビクビクしていろ、と思った。黒い影に取り憑かれているのも数人いたが僕には関係ない。

 やがて、見覚えのある坊主頭が目に入った。まだ名前も覚えていないが、こいつの顔は忘れない。

 ”お前が死ぬようにあの神像に祈ったぞ”と僕に面と向かって言ってのけた失礼な奴だ。

 僕はそいつの机の前まで行って、

「おい、坊主野郎。僕はこの通り生きているぞ。邪神様への祈りが足んなかったんじゃないのか。いいか、本当に人を殺したかったら自分の手を汚す覚悟をしろ。なんなら今ここで僕を殺してみろ。もちろん僕としては殺られる前に殺らなきゃならないが」

 怒りをぶちまけたら、坊主頭は土下座してきたので許してやった。


 こうして僕はテリー組長のおかげでクラスの覇者となった。もう喧嘩を売るバカも因縁をつけてくるアホもいないだろう。これでミコミコもクラスメイトの悪意から守ってやれる。そのためにはよりラブラブなところを見せつけてやろう。


 そんなことを思っていたら風間先生が教室に入ってきた。HRの時間になっていた。

「お知らせが3つあるので手短に伝える。先ず、引田文悟ひきたぶんごくんが元気になって通学できるくらい回復した。また前のように仲良くすること。次に今日は午前授業なので全員速やかに下校すること。部活も禁止だ。そして最後に。資料室に展示してある邪神像のレプリカだが急遽お借りしていた団体に返却することになった。今日の昼には郵送するのでもう拝めないが仕方ない。以上3つ。忘れないように」

 そう言うと風間先生は教室から出て行った。


 教室の中がたちまち騒がしくなった。特に邪神像の話は予想外だった。

 昨日の脅しが効いたのか、それとも他に大きな力が働いたのか、はたまた女軍師・黒田さんの入れ知恵か。

 遠藤さんと黒田さんの二人を見ると、特に驚きもせず落ち着いていた。事前に知っていなければあんなに冷静ではいられないはずだった。


 僕としては手間がかからないし理想的な展開ではあるがどこかスッキリしない。僕の脅しに屈したというよりは上手く逃げられた印象しかなかった。

 それに風間先生達の目的もよくわからない。そもそもなぜあんな邪神像を学校に持ち込んだのだろう。

 たまたま珍しかったから持ってきたら、自然発生的に邪神を拝む流れになったのか。

 実は風間先生の正体は爬虫類型宇宙人のレプティリアンで手始めに生徒たちを支配下に治めるつもりだったのだろうか。

 いくら考えてもわからないので考えるのをやめた。


 正午が過ぎて下校時間になった。

「ねえ、ブンちゃん。お腹空いたからなにか食べて帰ろ」

「そうだな、駅前に新しくオープンした和風甘味屋に行ってみようか」

 手をつないで玄関まで歩く。ミコミコは僕の女だからイジメたらわかっているな、という意図を伝えたく、あえて見せつけるように手をつないで歩いた。


 玄関に着き下駄箱を開けると手紙が入っていた。ミコミコにばれないように手紙をカバンに入れた。どう見てもラブレターの類いではない。

 駅前の店に入って、ミコミコがトイレに行っている間に手紙を読んだ。

 ”今日の午後二時に体育館で決着を”

 とだけあった。差出人の名は書いてないが想像はできた。決着は僕も望むところなのでミコミコとあんみつを食べてから僕一人で学校にとんぼ返りをした。


 体育館の中に入ると奥の方に遠藤睦美えんどうむつみさんがいた。近づいていくと体育館の入口の扉が閉められた。黒田明子くろだあきこさんによって。

 カバンの中には井上エクスカリバーがちゃんと入っているから何が起きても大丈夫。


 そう思っていたら遠藤さんは突然セーラー服を脱ぎだした。スカートも脱ぐと現れたのは下着姿ではなく、SM嬢を思わせるボンデージ姿。

 男のさがでどうしても見入ってしまう。

 いや、イカン。すでにペースにハメられている。状況を理解しなければ。


 ビシィッと右肩に衝撃が走った。やがて痛さが伝わってきた。

 遠藤さんがムチで僕を攻撃したのだとわかった時には顔面に衝撃が走っていた。

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