第12話 悪魔憑きの少女 後篇

 視える能力に関しては自信がある。

 だから御子神みこがみミコが悪魔に憑かれたフリをしても僕の眼はごまかせない。

 悪魔が視えないのは彼女が嘘をついているからなのだ。


「祓う対象者が嘘をついていた時のけじめの付け方。いい機会だ。ブンゴ、後は任せたぞ」

 ドスの利いた声でそう言うとテリー組長は部屋を出て一階に降りてしまった。

 彼女のミコミコと部屋で二人きりという状況は少しだけ気まずい。

 しかし任された以上は何とかしなければ。


「なぜ悪魔に取り憑かれたフリを?」

 間抜けな質問だがここは直球勝負。

「あの事件の後、どうなったと思う? 初めは非難の矛先がブンちゃんに集中していたけど、ブンちゃんが悪霊に取り憑かれて引きこもりになったら潮目が変わったの。ブンちゃんは同情され、今度は私が槍玉に挙がったわ。クラスの雰囲気は最悪。誰も信じられない。そこで私もブンちゃんの真似をしたら学校に行かなくてもいいし同情もされるかと……」

 ミコミコは嘘みたいに落ち着いて話してくれた。

「なるほど。緑色の液体を吐いたり、階段をブリッジで降りたり。涙ぐましい努力だね。そうだ、参考までに卑猥な言葉で僕を罵ってくれないか」

「死ねェッ!!」

 少しからかっただけなのに彼女はペンで僕の眼を突いてきた。アブナイアブナイ。やはり別れて正解だったのかも。


「私からも質問。ブンちゃんも悪霊に取り憑かれたのは嘘だったんでしょう。虚無僧の姿をしているのはどうしてなの? 学生は辞めて虚無僧に転職?」

 からかい半分に彼女が聞いてきた。さっきのお返しらしい。でも彼女が笑っているから良しとする。

「いや、僕は本当に憑かれていた。聖剣・井上エクスカリバーで祓ってもらったのさ。それ以来、たましずめ組という退魔組織の組員になって今に至っている。虚無僧はコスプレ屋のキャンペーンで貰っただけで特に意味はない。でも尺八までちゃんと付いていたから驚いたよ」

 僕はそう説明して、やおら尺八を吹き出した。

 ブォ~、ビヨォ~。

「やめて! 部屋で尺八を吹かないで。それにブンちゃんは嘘つきね。聖剣・井上エクスカリバー? たましずめ組? コスプレ屋のキャンペーン? もっとマシな嘘をついたら」

 彼女は信じていないが僕は嘘をついていない。


「でももしその話が本当なら夢があるわね。今更学校には行きたくないし。たましずめ組、ね。私も入ってみたいわ」

「それは大歓迎するけど条件があるんだ。この世の法や常識を捨てないとやっていけない。もう一つ大事なのは素っ裸になる必要があるならすぐに脱げる人材じゃないと。僕は脱げるけどね。ミコミコは今すぐにここで脱げるのかな」

「セッ、セクハラよ! やっぱりブンちゃんは嘘つきね」

 彼女は信じていないが僕は嘘をついていない。


「ではそろそろ、お祓いの儀式を君のご両親にお見せしなければ。でないと格好がつかないしお金をもらえない」

「どんな儀式をするの?」

 彼女は不安げに聞いた。

「いつもは井上エクスカリバーを使うが折れてしまったんだ。だから聖書でミコミコの後頭部を思いっきりぶん殴る。ミコミコはそれから正常になったような演技をすればいい」

「嘘でしょ! 嘘つき!」

「自業自得だよ。もっともすべて狂言でした、と告白するなら儀式の必要もないけど」

「それはダメ。あっ、思い出した。映画のエクソシストよ。カラス神父はその身に悪魔を取り憑かせて窓から飛び降りてめでたしめでたし。ブンちゃんもそうすればいいのよ」

 内容はさておき、会話のキャッチボールは何とかできている。いい感じだ。


「ワガママばかりだね。ミコミコは」

「さっきから気になってたんだけどその呼び方はやめて。もう別れたんだし」

「僕は今でも好きだ。やり直せるよ。いや、やり直そうよ」

「ブンちゃんは嘘つきね……」

 ミコミコは頬を赤らめて言った。


 誓って言うが僕は嘘はついていない。

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