第三章 西富士高校の決斗
第11話 悪魔憑きの少女 前篇
今日でゴールデンウィークは終わり。
ついこの間まで引きこもりだった僕も明日からは学校に通う。そして高校で発生したあのすべての元凶を祓う。恐れはない。どころか早く自分の力を試したかった。
「ブンゴ、今日は私に同行してくれ。祓う対象者は君と同じ高校の女生徒だ。それもよりによって悪魔憑きだ。こいつは少し
珍しくテリー組長に頼まれた。二つ返事で了承したが同じ高校というのが気になる。その女生徒の名前を見たときは我が目を疑った。
西富士高校の心霊事件の中心人物。
そして僕の元彼女。
ケンカ別れしたがまさか悪魔に憑かれているとは。
今、助けてやるから待っててくれ。
とはいえ僕の正体は隠していくことにした。元彼に弱ったところは見られたくないに違いないし、またケンカになったらお祓いどころではない。
幸い、こないだキャンペーンでもらった虚無僧なりきりセットがあったので利用させてもらう。頭部すべてを覆う編笠で僕の正体はわからないはず。
悪魔憑きの少女がいる家へ向かう異形の二人は目立つ。
だから、通りを行き交う人達が僕らを遠巻きに見ていたがその気持もわかる。
異形の一人は極道風の男。テリー組長。
白いスーツ、ワニ革の靴、恰幅のいい身体、短髪、口ひげ、サングラス。
「ブンゴ、景気づけに尺八を吹け」
ビヨォ~ブォ~……。
もう一人の異形は、テリー組長に言われ尺八を吹く虚無僧姿の僕。
まだ尺八はうまく吹けないがこれは今から始まる戦いの狼煙だ。
彼女の家へ着くと両親が出迎え、すぐにリビングへ通された。
「映画のエクソシストは見たことがあるかな?」
「ええ、かなり昔ですが」
きちんとした身なりの父親の問いにテリー組長が答えた。
「ならば娘の奇行は映画を思い出してくれ。卑猥な言葉で罵る。首を110度くらい後ろへ曲げて緑の液体を吐きかける。階段をブリッジの状態で降りてくる。大体想像できたかな。ゴールデンウィークが始まったあたりから娘はおかしくなったんだ」
「まさしく映画そのままですね。でも私たちが娘さんを元通りにします」
疲れている父親に対し、テリー組長が自信満々に胸を叩いた。
「憑き物落としに滅法強い奴がいると聞いて君に頼んだんだ。君でだめだったらヴァチカンか精神科の出番になるがなるべくそれは避けたい。なんとしても娘を、ミコを元に戻してくれ。この際、手段は問わない」
そう言うと父親は二階のミコの部屋に案内してくれた。堂々としたテリー組長に編笠をかぶったままの虚無僧姿の僕が後に続く。母親もオロオロしながらついて来た。
ノックをして部屋に入る。僕はミコと付き合っていた期間は短いので彼女の部屋に入るのはこれが初めてだった。思わずあちこち眺めてしまう。
可憐な少女がスヤスヤと寝息を立ててベッドで寝ていた。こんな少女が悪魔に憑かれるなんて理不尽だ。だがもう少しで終わるから頑張れ、と心の中で語った。
「さて、これからお祓いを始めます。しかしご両親がいらっしゃると娘さんは無意識に甘えてしまいます。それはよろしくありません。どうかお祓いが終わるまで下の階で待機をお願いします」
ドスの利いた声でテリー組長が両親に告げた。ご両親は素直に従ったので部屋の中はテリー組長と僕とミコの三人のみになった。
「さあ、やるか。ブンゴよ、どう視える?」
「それがまったく視えません。彼女が寝ているからでしょうか」
話しているとミコが目を覚ました。
「う、う~ん……。ヒッ! 何でヤクザと虚無僧がいるのッ」
僕たちを見て彼女は怯えた。
目覚めたら部屋の中にヤクザと虚無僧がいるのだから驚くのも無理はない。
それから彼女は白目を剥き、口からはよだれを流し、
「悪神パズスの力の前ではヤクザも虚無僧も無きに等しい。我が力を思い知れ」
と言ってマグカップや雑誌やぬいぐるみを僕たちに向かって投げてきた。
困った状態だが彼女を視て確信した。
「茶番はそこまでだ。僕の視える眼はごまかせないぞ。なぜ悪魔が憑いてないのに憑いたふりをするんだ? ミコミコ」
ここで僕は初めて編笠を取って正体を明かした。
ミコミコは悪魔付きのふりをやめて、とても驚いた顔で僕を見ていた。
その表情が面白かったのと、また彼女に逢えた喜びで僕は腹の底から大笑いした。
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