第10話 爬虫類型宇宙人、鬼女

 たましずめ組は自分で言うのも何だが、かなり良心的な組織だ。

 なぜならここに持ち込まれた依頼は何もかも受けるわけではない。

 他所で相談をした方がいい場合。

 僕が視ても憑き物が存在しない場合。

 これらのケースに当てはまる場合は依頼を丁重にお断りする。


 他の退魔組織はお祓いが必要としてなくても、依頼人を騙して多額の金銭を要求するのが常であることを考えるとやはり、我が組織は良心的だと誇っていいはず。


「早く対応しないと間に合いません!」

 正午の事務所。テリー組長はご指名で退魔のお仕事に、占い師の浦辻うらつじさんもつい先程ランチに出かけてしまった。僕も昼にしようとしたら運悪く、おかしな女性に捕まってしまった。


「で、そのがすでに地球を支配していると?」

ですっ! 彼らは人間に化けていますが本当の正体は爬虫類型宇宙人です。騙されてはいけません」

 興奮して主張する彼女をボーッと見ていた。リクルートスーツを着ているのは就職活動中なのだろうか。ゴールデンウィークなのにご苦労さん。シトラス系の香水の匂いが芳しい。スレンダーでみどりの黒髪。こんな綺麗なのに勿体無い。


「すでに世界の主要な政治家やセレブ、投資銀行や穀物メジャーの上層部に彼らは潜り込んでいるわ。幸いまだ日本は大丈夫。早く対抗策をとればなんとかなるわ」

「もし、その話が本当だとしても、こんな退魔組織では何もできませんよ」

「いい、今が正念場よ。でないとレプティリアンの陰謀が日本で行われる。そうなると私は就職できないし、あなたはきっと結婚できないわ。陰謀のせいで少子化社会よ」

「いずれにせよお断りします。スケールが大きすぎて手に負えません」

 僕の言葉に、

「そう、わかったわ。本当はあなたもレプティリアンなんでしょう。もう頼まないわ!いつか退治に来るから覚悟なさい!」

 おかしな依頼人は怒って帰ってしまった。

 彼女が帰った後、事務所内にはシトラス系の爽やかな残り香がしばらく漂っていた。


 さて、やっとお昼にありつけるぞ。昼の珍事は忘れ今日は軽めに屋台のホットドッグにしよう。

 事務所を出てすぐに、前回断った依頼主の山田さんに出くわした。事務所にUターンして山田さんのお話を聞くハメになった。


「その依頼は前回に断ったじゃないですか。山田さんの奥様は実際にお会いしてとても素晴らしい人だと感じました。僕の眼で視ても鬼女なんて取り憑いていません」

「いいや、外面がいいだけだ。依頼を断られてからますます状況はひどくなっている」

「例えば?」

「高額の生命保険に入れられた。おかげで月の小遣いがたった三千円になった。信じられるか、オイ」

「ちゃんと将来のことを考えているからですよ、きっと」

「オカズも揚げ物は出なくなった。菜っ葉や小魚ばかりだ」

「成人病にならないよう気を使ってるんですね、きっと」

「俺が仕事から帰ってきても家にはいねえ。ヨガ教室に通ってやがる」

「奥様は健康と美容に気を使ってるんですね、きっと」

「この野郎! お前はどっちの味方だ。いい加減にしろ」

 適当に受け答えをしていたらとうとう山田さんが怒り出した。


「いい加減にしてほしいのはこっちですよ。夫婦間の愚痴は他所でお願いします。それに結婚生活は大体そんなもんでしょう」

「若造が利いたふうな口を! お前も結婚すりゃ俺の気持ちがわかる」

「あっ、僕は結婚できないそうですよ。レプティリアンの陰謀で」

「なんだぁ、そのってのは?」


 それから山田さんにレプティリアンの説明をした。

「こりゃ大変だ。なんか対策はないのか?」

 意外にも山田さんはこの与太話を信じた。


「そうですね。先ずは奥様を愛してください」

 キマった! と思ったが山田さんは再び奥様への愚痴を言いだしたので事務所から叩き出した。

 初めからそうしていればよかったと後悔した。

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