第6話 貧乏神
ある繁華街の裏通り。年季の入った雑居ビルの三階の一室。
たましずめ組の事務所はそこにあった。
「どうやらブンゴは憑依体質のようだな。感受性が鋭敏だから怪異が視える。さらには怪異に同調しすぎるから取り憑かれやすい。これを克服すれば一人前の祓い屋になれるのだが……」
テーブルを挟んで応接用のソファーに座っているテリー組長がコーヒーを飲みながらつぶやいた。
「そうですね。それは今後の課題としておきます。それよりも今現在、この事務所にヤバそうなのが居座っているのがわかりますか?」
ソファーから立ち上がって僕は言った。
「何が視えるのか教えてくれ」
「う~ん。ボロをまとった貧相な老人。まるで食べ物を乞い願うかのような。一言で言えば貧乏神。あそこの屏風から覗いていますね」
僕はテリー組長の問いに答えた。
「よし、ブンゴよ。見事祓ってみせろ。やり方は任せる」
テリー組長が命じた。
試されていると思った。だから期待に応えたかった。
「任されました。思いっきり祓います」
そう言うと僕は退魔用の剣である井上エクスカリバーを手に持ち、禍々しい屏風の前に立って、
「貧乏神よ、ここにはお前の居場所はない。おとなしく出て行けば見逃そう。だがもし居座る気ならばこの井上エクスカリバーのサビにしてくれる」
と、口上を述べた。
ところが貧乏神はそんな僕をあざ笑い鼻くそをほじり始めた。
僕の中で何かがキレた。
「その振る舞いは悪しゅうござる」
井上エクスカリバーで屏風ごと貧乏神を斬った。ところが貧乏神はヒラリと一撃を
「おのれ、覚悟しろ」
咄嗟に壁に向かってパンチを繰り出すがまたもや逃げられた。おまけに僕のパンチで壁に穴が空いてしまった。
「フン、安普請にも程がある」
僕はイラつきながら言った。
こうしてドタバタしていたら貧乏神が力尽きかけたのか地面に座りハアハアと苦しそうに呼吸していた。
好機到来。
「おい、知っているか。相撲の四股とは本来は悪鬼を踏んで鎮めるために行うのを。今から踏んでやる」
僕は片足を高く上げ、
「どすこーい!」
と片足を力強く下ろしたのがバリっという大きな音と共に床が抜けてしまった。
貧乏神はまたもやスルリと僕の四股を
つまり僕は貧乏神に取り憑かれてしまった。
数秒後に事務所のドアが勢いよく開いた。
「さっきからドタバタうるさいので見に来たら、ああ。床が抜けている。壁に穴まで……」
これまた貧相な小男が嘆息していた。
「あなたは一体誰ですか?」
僕は尋ねた。
「私は下の部屋に住んでいる大家だ。修繕費は当然払ってもらうし、家賃も値上げせざるを得ない」
大家が言った。
「ブンゴよ。実はあの屏風はクライアントからの預かり物でな。禍々しい雰囲気を無傷で祓うように依頼されていたのだ。屏風はあのザマなので依頼料はもらえないどころか修理費を払うハメになるだろう」
テリー組長がまさかの追い打ち。
「祓うやり方は任せるって言ったじゃないですか」
「ああ、任されるというのは責任を全て負うということだ」
僕の反論はテリー組長によってあっけなく粉砕されてしまった。
貧乏神が僕に取り憑いたらこんな状況に。
恐るべし貧乏神。
「貧乏神を祓う代わりに修繕費や修理費を払うとは。やれやれ」
僕の軽口でこのピリピリした雰囲気が和やかになるかと思ったが、大家もテリー組長も厳しい顔のままだった。
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