第3話 テキサスの荒馬と古の剣豪

「では霊感も霊能もゼロなのにテリー君は祓い屋みたいな真似をしてたんですか」

「そうだ。強い想い、強い怨み、強い執着などをビジュアルとして、映像として感じる人は珍しくない。霊や悪魔や妖怪に視えてしまうのだ。ブンゴ、君のように」

 ここは隠れ家のような喫茶店。客は僕たち以外いなかった。コーヒーを飲みながら質疑応答をしていた。


「大事なのは視えた対象、つまり霊や悪魔を祓うのではないんだ。視えている人の、取り憑かれた人の意識を相手にする。強い想い、強い怨み、強い執着などをほどけばいい」

「どうやって? 具体的な方法をぜひ」

 もし、それを知りさえすれば学校の事件に再び……。


「それは臨機応変、千変万化。祓い屋なんかに依頼してくるような人達だから、求められた役割を演じつつもさらに突飛な事、常識外なことをして彼らを驚かせなければならない。そうすることで強い感情に囚われた意識を一瞬でも動かす、ずらす。その時に呪文なり儀式をすればいい」

「僕は霊が視えるからこの手の事件を解決しようとしたんだけど失敗しました」

「霊能なんか無くても本質さえ捉えれば祓える。視えていてもそれだけじゃダメだ。そこでどうだろう。私の仕事を手伝ってくれないか。なんだかんだで視える人が助手にいるのは助かる。報酬は依頼料の半分出そう」

「こちらこそよろしくお願いします。僕もここでノウハウを学びゴールデンウィーク明けには学校の事件にリベンジするつもりです」


 テリー君は僕の言葉でニコニコしていた。

「なら決めなければいけないことがある。それは二つ名やビジネスネームだ。この業界は本名で働くひとはいない。本名を知られるのは力を明け渡すのと同じこと。さあ、今ここで考えようか」

 テリー君の言葉に僕は頭をひねった。しかし格好いいのを考えようとしてもまとまらない。

「ちなみにテリー君は何でしたっけ?」

「私はあだ名がテリーだったからテキサスの荒馬・テリーになった。前の退魔組織で決められたんだ。テリー・ファンクというプロレスラーが由来だ。案外気に入っている」

「僕のフルネームは引田文悟ひきたぶんごだからヒッキーはどうかな? 実際に引きこもっていたし」

「却下だ」

 すぐに否定された。


 頭に糖分補給が必要と判断し、喫茶店名物の化け物パフェを食べることにした。

「なら、私が名付けよう。いにしえの剣豪・疋田豊後ひきたぶんごだ。あの上泉伊勢守かみいずみいせのかみの高弟で疋田陰流ひきたかげりゅうの開祖だ。決め台詞もある。立ち会いの際に『その構えはしゅうござる』と言って斬りかかったそうだ。引田文悟ひきたぶんごと同音異字だしピッタリだ。決まりだな」

 テリー君が言い終わると化け物パフェが運ばれてきた。その大きさに圧倒される。果たして食べ切れるのだろうか。


「すると僕は剣豪キャラですか。ってことはあの井上いのうえエクスカリバーをクライアントに斬りつけるんですか? 『それはし』などと言って」

「フフフ、すべては取り憑かれた人の意識を揺さぶる方便であり茶番だ。それは常識はずれで奇矯な振る舞いであればあるほど効果が上がる。色々と試してみることだな」

 僕の問いにテリー君は答えた。


 まとめるとこういう事らしい。

 ・強い念を霊などの映像として視えてしまう人がいる。

 ・その視えたものではなく、視た人の意識に揺さぶりをかける。

 ・そのためには常識外のおかしな振る舞いをすればいい。


 考えをまとめていたらいつの間にかパフェを食べ終えていた。テリー君はコーヒーを追加注文した。

「これからは私のことをテリー組長と呼ぶように。明日から早速仕事だ。死神を祓ってくれという依頼だ。期待している」

 テリー君は、いやテリー組長はそう言うと二杯目のコーヒーを美味そうに飲んだ。


 こうして僕は『たましずめ組』の組員になった。

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