第2話 おもちゃの剣

「ええと、お誘いは大変名誉で光栄なのですが、なにぶんこのような状態ですので今回はとても残念ですが辞退しようかと。申し訳ありません」

 自分でも驚くほど早口で断った。

 裏の世界? 新しい組の構成員? 悪霊に取り憑かれて苦しんでいるのに冗談じゃない。


 しかしテリー君は微笑を浮かべている。その笑顔がまた逆に怖い。

「そうだった。私としたことがつい先走ってしまった。話はすべて聞いている。今、楽にしてやるからな。安心してくれ」

 そう言うと持ってきたスーツケースの中からおもちゃの剣を取り出した。

 よくある特撮の戦隊モノの子供用のおもちゃの剣。

 その剣を大上段に構えてテリー君はつばにあるボタンを押した。剣身が光りだしバチバチッと火花が散っている。

「今宵の井上いのうえエクスカリバーは血に飢えている。火花が散れば首が飛ぶ。祓え祓うぞ祓う時」

 そうつぶやくとテリー君はおもちゃの剣で斬りつけてきた。


「なっ、何をするッ!」

 咄嗟に枕で剣を防いだ。たちまち焦げ臭い匂いがした。枕を見たら焦げている。あれはおもちゃの剣では決してない。おそらくはスタンガンのように剣身から高圧電流が流れているのだろう。


「うむ、よくぞかわした。それでこそ我がいとこ。気づいたと思うがこの剣には高圧電流が流れている。そもそも霊だの妖怪だのという奴らの性質は電気と非常に似ている。そこでより強い電流で悪霊どもをやっつけるのがこの聖剣・井上エクスカリバーだ。さあブンゴよ。たった一回電気ショックを受けるだけで黒い影から解放されるぞ。おとなしくそこに直れい」


 そう言われても、ハイそうですかと従うわけにはいけない。

 当然、必死になって逃げた。

 しかし力及ばず。

 ”バァチバチィッ”

 背中に強い衝撃を感じて、僕は意識を手放した。



 気がついたらベッドの上で寝ていた。

 時計を見ると気絶した時間は五分ほどだった。

 背中はまだ痛いが、気分はとても素晴らしかった。

「さっきはすまなかった。だが祓うために必要な儀式だから仕方なかった。それでブンゴを苦しめてきた黒い影はまだまとわりついているかな?」

「いや、そういえば……。ない! きれいサッパリ消えた!? すごい、すごいぞ! ありがとうテリー君。ありがとう井上エクスカリバー」

 テリー君の問いに僕は興奮して答えた。

「もう引きこもる必要もないし、学校にも通えるな。良かった良かった」

 テリー君にそう言われると僕の顔は曇った。まだ学校に通うには解決すべき事件がある。あの恐ろしい魑魅魍魎もまだ学校内に巣食っているが、今は人間が信じられない。


 暗い顔のままでいるとテリー君が僕の肩を叩いた。

 「話したい事が沢山ある。場所を変えよう。それと遅くなったが私の名刺を渡しておく」

 そう言って名刺を渡したテリー君は部屋から出て行った。

 僕は名刺をまじまじと見た。

『除霊、お祓い、憑き物落とし、呪い返し等はお任せください。

 たましずめ組 組長 テキサスの荒馬・テリー』

 と印刷されていた。


「こっちも聞きたい事が沢山あります」

 僕もあとからついて行く。


 約一ヶ月ぶりの外出だった。

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