祓ってポン!

はらだいこまんまる

第一章 いとこのテリー

第1話 スカウト

 皆が視えない存在を僕だけが特別に視える。でもそれが何だというのだ。

 その能力があれば上手く解決できると信じていたのに。

 良かれと思ってトラブルに首を突っ込んだが、僕を待っていたのは称賛ではなく非難と白眼視。

 恋人も親友も離れていった。


 それに黒い影のような存在(おそらくは悪霊)が、いつも僕にまとわりついている。

 重くて苦しくて怖い。医者は精神系の薬を処方して様子をみるだけだった。

 だから学校は四月の事件以来ずっと休んでいる。

 せっかく入学した進学校だがこんな状態では休学、いや最悪の場合退学も覚悟しなければならない。


 明日からはゴールデンウィーク。休みが明けたら僕はどうなっているのだろうか。

 このまま変わらずか、もっと悪化しているか、はたまた今までのことが夢だったかのように黒い影はどこかに去り、体調が全快して再び学生生活を謳歌しているだろうか。


 両親は家族会議をしたが結論が出なかった。次に親族会議を開いた。その結果はテリー君に一度任せることになったらしい。


 僕のいとこの浅尾輝彦あさおてるひこ。名前が輝彦だから愛称は昔からテリー君。

 彼は一言で言うと自由人。高校を卒業すると就職もせずに世界放浪の旅に出ること数年。最近帰国してようやく就職したと聞く。

 そんな彼が今日、僕のためにやってくる。



 朝食をボソボソと食べ終えて自分の部屋に戻る。それから特にやることもなくベッドに横になる。毎日の繰り返し。黒い影が今日もまとわりついて体が重い。

 ボーッとしているととチャイムが鳴った。テリー君が到着したようだ。


 数分後にノックの音がして部屋のドアが開いた。

「御邪魔します」、

 とかなり重低音のドスの利いた声を発した人物は高級そうなスーツを恰幅のいい身体に包み、サングラスに口ひげで短髪の大男。


 入ってきたのは……誰? 

「え、え~と、あなたはもしかしてテリー君ですか?」

「フフフ、いとこの顔を忘れるくらいおかしくなったか」

 ヤクザ風の男はやはりテリー君だった。よく見れば面影が少し残っているような……。それにしてもえらい変わりようだ。

「そ、その、テリー君は任侠の世界に入ったのですか?」

 子供の時はもっと普通に話していたが、今は敬語を使わずにはいられない。

「裏の世界、という意味では似たようなもんだ。今年になって私は前の組織を抜けて新しい組を立ち上げたばかりなんだ。ブンゴも組の構成員になって盛り立ててくれないか」


 僕にまとわりつく黒い影の存在を一瞬だけ忘れるくらい衝撃的な誘いだった。

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