第4話 さんにんめ。
さんにんめ。 『麝香 音音子 (じゃこう ねねこ)』 29歳。
「では、次はあたくしの番ですね」
メンバーの中では最年少の彼女は、ゲーム会社勤務。
いつもゴスロリやメイドのようなフリフリの服を好んで着るのと、顔立ちが幼いので、とても若く見える。
旦那も同じゲームメーカー勤務。SE。開発に携わっているので、そこそこ上の立場らしい。音音子も、デザイン畑でありながらも、企画などにも手腕を振るうデキる女だ。
だが、この夫婦は変わっていて、休日は別々の趣味に没頭し、一緒に行動することはない。旦那はアイドルとアニメの追っかけ。 音音子もアイドルとアニメの追っかけ。同じ趣味ではあるが、性別が違えばジャンルも違う。表裏一体でも別世界。
だから子供もいない。作らない。夜の営みも無し。ある意味究極のご都合夫婦。
「でも彼は特別な存在なのです……」
なぬ? 音音子らしからぬ発言。話を要約するとこうだ。
ゲーム開発の顔合わせで、声優の男の人と一緒になる機会があって、その打ち上げ。
かなりのイケメンであるその声優は、酒に酔った音音子をくどく。男に免疫のない音音子は、胸キュンしてゴートゥーヘブン。まわりが見えなくなってしまった。
「あのさ、言いづらいんだけど……それって多分遊びというか、本気じゃないっていうか……」
誰しもが思う当たり前の感想。一日限りの代役。性欲だけの捌け口。汚い言葉ではヤリ捨て。なんとかオブラートに言葉を包んで諭したつもりだが、良薬口に苦しでまったく効果はない。その手のファンからは絶大な人気を誇るイケメン声優だけに、あまり良いイメージはない。
「彼は私を待っているんですのよ。だから、こっちから接近してあげないと!」
うわぁ。これって大丈夫なんですか? 思考がヤバくないですか?
不倫することはいけないことだけど、不倫する相手を間違えてないですか。
「やめときなって。旦那にバレたらどうするのよ?」
「実は……すでにしゃべってしまったんですの」
うれしそうに話す音音子。おやおや。この子の頭の中は一体どうなっているのやら。
だがしかし。旦那は怒りも驚きもせずに、そのイケメン声優と、どんなプレイしたのかを聞き出す始末。ああ、これは、NTR(寝取られ)ってヤツで、それに興奮するタイプなのか。旦那は変態なんだな~。
でも、そのイケメン声優と関係を持ったのは一回きりで、連絡先も教えてくれないそうだ。まさしくヤリ捨てパターンの王道。相手が遊びであったのは確実に明白。
「ネットを駆使して調べましたのよ……彼のマンションを!」
すでに、音音子の目の輝きは尋常ではなかった。
追っかけを日常とする女の異常な思考。相手の迷惑など微塵も感じない異常な感情。
この場にいる女友達全員は、彼女にかける言葉もみつからないまま、コーヒーをすする他なかった。
「ぜったいに彼のマンションをつきとめますわよ!」
音音子は、どこに向かっているのだろうか? つづく
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