第3話 ふたりめ。

ふたりめ。 『不和 倫 (ふわ りん)』 42歳。


「じゃ、次はアタイの番だねー」


禁煙パイポ(古い)をくわえながら、茶髪の髪をかき上げ、倫は背もたれに寄りかかった。


「アタイの話はヘビーだよー? みんなついてこれっかなー?」


独特の巻き舌口調で、倫は話を始めた。要約するとこうだった。

同い年のダンナと結婚して22年。3人の子供に恵まれ、順風満帆な生活を送っているかのような彼女だが、実はそうとうな問題を抱えていた。


まず、ダンナが19歳の飲み屋の女とデキて妊娠。そして、倫も55歳の妻子持ちと不倫して妊娠。ダブル不倫のダブル妊娠ときたもんだ。開いた口がふさがらないとはこの事だ。


倫のダンナは結婚式の時に見た事があるだけだが、なるほど、ヤンキー気質の軽そうな男に見えたのは間違いなかったか。おまけに女に手が早いときたもんだ。


「で? どうするの?」


私が仕方なしに口をはさむ。

見ず知らずの相手だったら、間違いなく軽蔑していただろうレベルの色恋沙汰。いや、ただの不倫話。だが、友人の背負ってしまった不倫ならば、さすがに知らない顔もできないのも事実。


「ま、なるようになるんじゃないの。アッハッハ!」


倫は、まるで他人事のように笑い飛ばした。

あっけらかんとした態度はいつもの事ではあるが、さすがに子供たちだって黙ってはいないだろうと思う。


「子供たちには話したの?」


倫は両手を軽く挙げた。どうやら、愛想をつかして出ていってしまったようだ。

できちゃった結婚で子供を生み、すでに成人を過ぎた子供たちならば、この親がどういう親かは判別がつく年頃だろう。それならば、仕方ない事ではあるが、子供たちも新しい生活を始めていくにはいい年頃かもしれない。そう考えるしかない。


その時、ちょうど隣のテーブルに、大学生ぐらいの4人組が入店してきた。

大声で話しながら、まるで他の客に気を使わないような、子供のような学生たちだった。私は、その学生たちをジッと睨んだが、すぐに目を背けた。子供のような男どもには興味がないからだ。


倫は、それからも、テキトーな態度で話を続けた。

だが、話が進めば進むほど、倫の口調はたどたどしくなっていった。

遂には、涙を流しながら、むせび泣くような声になっていった。


「アタイ、もうどうしていいか、わからなくなっちゃったよ……」     つづく

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