第2話 ひとりめ。
ひとりめ。 『福田満子 (ふくだ みつこ)』 35歳。あだ名は『ブーちゃん』
「ねぇ! 聞いて、聞いてヨォ!」
元気で大きな声で、皆の話を遮断するかの様に、ブーちゃんが手をあげる。
皆は苦笑いして顔を見合わせるので、仕方なく私が指を指す。
「はい。ブーちゃん。で、どうしたの?」
彼女は、工場の派遣会社に勤めている。実家の親元で暮らしているので、あまりお金には不自由していないようだ。その分、好きなグルメに金を注ぎ込んでいるのは、ふくよかな体型を見れば一目瞭然だ。
話を要約するとこうだ。
工場の正社員で、年下のイケメンがいるそうで、そのイケメンがデートに誘ってきたらしい。当然、ブーちゃんはOK。面食いな彼女はぞっこんLOVE。デートにデートを重ね、日帰りの旅行にも行ったそうだ。でも、ブーちゃんには悩みがあった。
その悩みとは、イケメンはブーちゃんに全く手を出さないのだ。いくら最近の装飾……じゃなくて草食男子でも、何度もデートすればそれなりの関係を持ちたくなるものだと思う。手は繋ぐらしい。しかし、キスはしない。してくれない。せまってもはぐらかされる。
「彼、私のカラダに興味ないのかしら?」
いや。アンタのような、ふくよかな体型の女子を誘うのなら、完全にデブ専だと言い切ってもよい。それで、性的な関係を求めないのは、何か訳があるに違いない。私は、ひとつピンと来た。それを聞こうかどうしようか迷っていると、他の友達が先陣をきった。
「それって、お金目当てじゃないの?」
ブーちゃんの顔が一瞬引きつる。図星。心のどこかに潜んでいた動揺。
問いただすと、どうやら、イケメンには服やらアクセサリーやら、かなりの額の物をプレゼントしたようだ。さらに、お金に困っているようで、10万貸したばかりだと言う。こりゃ、確定ですかね。
「あのさ、その男はやめた方がいいんじゃないの?」
当然のアドバイスだが、ブーちゃんには皮肉にしか聞こえない。
そんなことないの一点張り。涙を流して否定する。醜い顔がいっそう醜くゆがむ。
そんな時、ブーちゃんの携帯電話が鳴る。にやける顔。
その話相手を想像するに、例のイケメンであることは容易にわかった。
彼はすぐ近くに来ているようで、ちょっと席を外すと言ってブーちゃんは店を出た。
その数分後。
ブーちゃんの顔は、屠殺場に送られるブタのように悲観した表情だった。
私たちが聞き出すと、誰しも口を閉ざさずにはいられなかった。
「また10万貸してだって……」 つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます