6 あらわになる陰謀
6-1. 教師の思惑
美しい町に見とれていたせいか、それとも考えごとをしていたせいだろうか、館に着いた頃には約束の時刻をかなり過ぎていた。そこは
館の持ち主はさる中級貴族だが、美しい邸宅とセンスのいいもてなしで王都に名を知られており、ここでのパーティは城内に上がるような位の高い貴族も顔を出していたりする。季節のちょっとした
いかにも学者然とした上着と帽子を預け、ヤズディンは火酒の誘いを断って薄めたワインを頼んだ。食事以外でアルコールを嗜む習慣はヤズディンにはない。
ゴブレットを手に客間を渡っていく。目当ての集団はすぐに見つかった。
見知った顔の青年貴族が、屋敷のあるじエヴァイアン卿と向かい合ってボードゲームで対戦していた。ゲームを眺めながら、陶製の鉢からピスタシオをつまんでいるのは城の
ヤズディンは周囲を見まわす。
(有力者ばかりじゃないか。……さすがは、五公の重鎮、エンガス卿の威光というわけか)
ヤズディンは優秀な学者だったが、どちらかといえば研究者肌であり、人を
たとえば、彼女のような。
そのとき、歌うような甘やかな声が彼に呼びかけた。
「先生、どうぞこちらへ」
そこにいたのは、とりわけ目を引く
ヤズディンは
「言っておきますが、まだ協力すると決めたわけではありませんよ」中年教師は、慎重に言った。
「先日も申し上げましたが、あなたがたの計画には穴が多すぎる。彼女が正式に玉座を得る前の今という焦りはわかりますが、成功するとは思えませんね。……〈試しの儀〉でも、やはり失敗したでしょう?」
「ええ」アーシャは認めた。
「〈
「〈
「おっしゃるとおりですわ」
アーシャはしおらしく目をふせる。髪と目の色に合わせた銀糸の縫いとりのある青いドレスが、テーブルランプの灯りを映してオレンジ色の模様を浮かびあがらせた。すくなくとも美貌だけは認めざるをえない、とヤズディンは思った。
「でも、城にはわたくしの協力者がおおぜいいます。これから戴冠式まで、チャンスはいくらでもあります」
「〈黒竜大公〉のいる王城で?」ヤズディンは鼻で笑った。「最強の竜を従えた後継者が、彼女と〈
「竜騎手の協力者もいたのですが、さすがにデイミオン卿が目を光らせていては、難しかったようですわ。……ですから、先生の協力が必要ですの」アーシャはしれっと言った。
「私の?」
「デイミオン卿といえども、四六時中王太子に張りついているわけではありません。式典の準備もありますし、国境沿いではデーグルモールが出没しているとか。黒竜に乗っても、すぐには飛んでこられない距離に離れることだってあるはずですわ。先生はかなりの時間を殿下と過ごしておられますし……」
「なにを寝ぼけたことを」
ヤズディンは
「いくらふたりきりになろうとも、
アーシャは笑みを深めた。「それも、もう解決しました」
〈
♢♦♢
一方、同時刻のタマリス城下街。
夕方からの
貴族たちのタウンハウスや、公使、役人たちの邸宅が立ち並ぶ山の手からは、だいぶん距離がある。
メドロートは、ライダーが葬儀に参列しては遺族のほうが気を
家はごく小さく、リアナたちがそこにたどりついたときには、すでにカロスという名前のその兵士の棺は運び出されようとしていたところだった。黒衣の男たちが担ぐ棺の後ろを、家族の近くについて歩いていた一人の男が、リアナの姿を認めて驚いた顔をした。
「殿下」
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