第9話 - クロエのギフト、その中身
「さっき話したわたしの性質は、わたし個人の能力と非常に深く結びついている」
「俺に"寄生"するときにカタチを変えたのなんだの言ってなかったっけ?」
「ああ、いずれ魔力を戻せば使えるかもしれないが、今はきみの能力の礎としての機能くらいしか果たすことはできない」
俺の能力の基礎。このスーツや変身しての戦闘能力――異能の。
「その実は、一言で言えばイメージの具現化能力だ。それこそ
「えーと……F○Oの宝○?」
「ジェネレーションギャップというやつか!」
「あー!メル○ラ?」
「油断をすると格ゲーにいくなあきみは……責任をとってくれというネタくらい返してくれると期待していたのに。原典たるノベルゲームは欠かせないだろう、18禁だが」
あのなあ、俺一応まだ未成年だからな?……まあ兄貴の隠してたエロゲーくらい遊んだことはたくさんあるんだが。メル○ラの元といえば○姫だろうけど、不思議なことに流行に敏感な兄貴の棚になかったんだよな。プレイはしたと言っていたが、借りたんだろうか。
「同人当時のあのディスク、わりとというか今じゃかなりレアだからね。しかしあれを読んでいないなんてきみは――いや、いやいやいや、こういうマウントめいた薦め方はよくない。初見の印象が曇る。それはネタバレに次ぐ大罪だ……じゃなくて能力の話だよ、話を戻そう」
脱線させたのほとんどお前じゃねえか。ネタバレが大罪なのは同意するけど。
いま改めて気になったので後で借りようとは思ったんだからいいじゃん。
「想像をそのまま具現化する能力……その限定行使版がわたしの能力だ」
「なんか制限でもあるのか?」
「わたしの性質だよ。わたしは想像と空想はできても、創造ができない。食べるだけでユメを持たないわたしができるのは、せいぜいが再現までなのさ」
「んーと……?」
「読んだ作品の能力を行使できる――それがわたしの能力だ。黄昏よりも昏きものの力を借りたり、焦熱への儀式へ誘ったり……といったような技は、作中で語られる原理やわたしの感動に比例して原作に近い威力を発揮する」
お前の能力だって俺とどっこいどっこいのメアリー・スーぶりじゃないか。
俺が妄想のなかのチートキャラだとしたら、クロエのそれは間違いなく万能のチートスキルだ。
「ただし、制約も多いよ」
・使うたびにその力は弱まってしまう。
・設定に納得が必要。納得がいかない具現化は原作に及ばない。
・自身が無理だと思った能力は使えない。
・再現できるのはあくまで原作で使われた使い方や、その一時応用に限られる。
解釈や創意工夫によって効力自体が変わるような効果は具現化できない。
「それが、きみの力の元となる能力――
流石に俺でも分かる、SFの名作古典のオマージュだ。
が……さっきの本人のセリフと合わせて考えると少し意味が変わるように思えた。
はっきりと「ユメは見られない」と言った彼女の能力名は自嘲のようで。
「
この話をするときだけ、クロエの幼くも妖艶で端正な顔立ちは、自嘲気味に苦々しく歪む。普段は余裕ある彼女が露骨につらそうな表情を垣間見せるあたり、本当に何度も何度も折れてきたのだろう。
「諦めがある程度ついたからこそ開き直って次の考えに移ることができたとも言えるがね。それが、誰かの想像力を利用することだった」
「わたくしでは役不足だったのですけれど」
びっくりした。いつのまにかツバキさんが俺の背後に立っていた。音も気配も全く感じなかったんだけど何なのこのメイドさん……まあ元対策室の所属ならそういう技能はあってもおかしくないんだろうけど。
「ツバキも残念ながら創ることに全く興味がない種類の人間だった」
「興味がないという訳ではないのですけれど……服などは作りますからね。ですがわたくしにとっては、物語の領域だけは、聖域のようなものですから」
メイドは主人に似るのだろうか。
憧れはありながらも遠いものを見る目は、クロエのそれと同じ色をおびていた。
「そういうわけで、いずれ"わたしが使うための想像力を発揮できる者"を探そうという腹案はあった。まさか一般人を巻き込んでぶっつけ本番になるとは思わなかったけれどね」
「あー……それで俺に"寄生"した後の一言目があの質問ってわけか」
「きみの中から最も強い空想を、いち早く引き出そうと考えた結果だとも」
――ねえきみ、ヒーローにあこがれたことは?
あるよ。子供向け>特撮>マンガ>アメコミ>ゲーム。
当たり前みたいに全部通ってきたかんな。
――では次。ヒーローになる妄想をしたことは?
もちろん。中二病は現役って自覚もある、流行らないモノ書きのはしくれだ。
――ふむ……もしかしたら大当たりかもしれない。
なるほど。強い妄想の持ち主。恥ずかしげもない中二病。
クロエは自身の具現化能力を経由して俺の空想を実現する。
いや、逆か――俺の妄想がクロエを介して結実される。
「ここまでの説明で、きみの想像力がモノを言うことは察しているね?」
クロエの言葉を借りるならそれはガソリン。
強大な
ということは。
「そして、これから来たる戦闘においての本題はここだ。きみがヒーローとして強くあろうとしたら、強くなろうとしたら、戦い抜こうと思うなら。何を磨く?」
「
「パーフェクト。100点をあげよう。そのご褒美と言っては何だが、さらなるヒントをあげようか。先の戦闘でわたしが試させた技はどうだった?明かに威力が違いはしなかったかい?」
襲撃者をあっさりと撃退できた今朝の戦闘では、クロエは何と言っていたか。
――パロディでない技をいくつか使ってみたまえ。
――オマージュはあってもいい。
――けれど自分で名前を付けたような技――そのヒーローのスキルを。
「どうだい?自分の技は。しっくりきただろう?」
「見透かしたように言われるのは割と腹立たしいものがあるな……。けどまあその通りだよ、明らかに手ごたえも威力も違ってた」
満足げなにやにやとした笑み。クロエの掌の上で踊らされているようだった。つまり、鍛えるべきはオリジナル技だということだ。恐らく、これは想像の質にあたる。そしてそれならば、量はおそらく技のバリエーションだ。
「それともう一つ、納得感を忘れるな。唐突に理由なく強いスキルを発想したところで、おそらくきみとわたしは納得しない――そうなれば能力は、威力を失う」
新技には伏線が必要とか、そういうことなんだろう。さすがに人気は出なくても何本か書いてきた中で分かってる。物語ならばそれは普通のことだ。
「わたしからはこのくらいだな。今の内に座学で詰め込んでおける知識は、こんなものだろう」
「やっぱりすぐ次がきたりするのか?」
「対策室のメンツも協力してくれるだろうからそうとも限らない。が、警戒すべき相手だからね」
「そんなにレベルが高い?」
「レベルというよりは兵站の所有、だな。ミスター都築の目を欺く結界破りに移動先不明の転移。それなりの高等術式なのに魔力を惜しむ気配すらない。長らく
それは、人間が犠牲になっているということなんだろうか。
クロエの言葉がよみがえる。
――ずっと現世に残って血や人間を魔界に献上するような、
貴族おつきの者たちだけは気がかりだけどね。
――おそらく、ミスター都築の結界を破った者は、
そういった『アウトサイダー』なのだろうから。
まだ実感こそ湧かないけれど、倒す理由ができた気がした。
「現世のことを知っていて兵站を持つということは手の幅が違うということ。持久戦もゲリラ戦もこなせるということだ。付け焼き刃の知識でも、ピンチのときのヒントくらいにはなるだろうと思ってね」
それに、と前置きをして。
「そういう相手だ、これからしばらく戦闘が続くことも覚悟しておきたまえ」
「……なるほど、了解」
この時点では俺もまだ、息つく暇もない連戦になるとは思っていなかった。
+++++++++++
話し込んですっかり日が暮れている。
そろそろ俺のほうの空腹もやばいので、一旦図書室を離れることにした。
あ、その前に。
「月○とR.O.○は借りてっていいよな?」
「もちろん」
よかった。期待せざるを得ない。
……得ないんだけど今この状態で読むと、もれなく背後霊ついてくんじゃねえのか。たぶん喜々として
「そんなことはしないよ……多分?」
「語尾が弱い!」
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