第5話-黒歴史ノート/技リスト
屋根づたいに走って100メートル程度まで迫ってきている人狼二体。
空に蝙蝠の羽を生やした目玉みたいなのが四体、幽霊っぽいのが五体。
その後ろからのしのしと進行してくるのろい大鬼みたいなのが一体。
500メートルくらい先の空には明かに雰囲気の違う吸血鬼っぽいのが一体と、ゾンビみたいなちょっとグロいのがわらわらと……ってあれ? 増えてない?
「増援?」
「いや、人狼たちは敵の本営で生み出されたものだろうが、グールたちは違う。おそらくは吸血鬼の使い魔だ。吸血鬼を葬ればただの死体になるか、少なくともほぼ無力なまでに弱体化するだろう」
「んじゃ、グールに足止めされない空からのがよさそうだ」
「変身――!」
翼を開いて飛翔する。
俺に引っ張られるようにクロエもついてきていた。
実体を持っていない状態だと物理法則を無視してフワフワそばに浮いている。
滑空してスピードにのっても同じスピードでついてくる。
スタ○ドって感じだ。
「そばには立てるが、いまのわたしにラッシュは無理だぞ」
「地の文に返答してる暇あったらアドバイスくらいくれませんかねえ!?
あと立ってないからね?浮いてるからね?」
「ツッコミを入れる暇があるならきみも考えてみてはどうだろうか」
ぐぬぬ。口の減らない幼女め。
「きのうの時点で、きみは"超"大技と、小技を使って見せたわけだけれど、おそらくあの中間くらいの"必殺技"が必要だろう。雑魚くらいは必ず殺し、それでいてオーバーキルでない、その程度の威力のね」
「威力の加減なんてわかんねーぞ……」
「加減の問題ではなさそうだけれど……思いついたことがある。
パロディでない技をいくつか使ってみたまえ。オマージュはあってもいい。けれど自分で名前を付けたような技――そのヒーローのスキルを」
話している間に、眼下の秋月さんと目があう。
落ち着いた怜悧なたたずまいのなかに、目だけはできるものならやってみろと言わんばかりの挑発的な色をしている。そんな顔されても俺もまだ自信はないんですけどね?
屋根を突っ走ってきた人狼のすぐ前に
昨日の人狼に見せられてから俺もやってみたかったというのは黙っておいたが――
「腕が伸びきっていたら効率が悪いだろうに。
カッコよさだけでなく機能美を兼ねた
幼女から実にマニアックなダメ出しをいただいた。きびしい。
だが指摘の通り、ポーズを意識しすぎて次の動きと接続していない。
格ゲーでいえば「着地硬直が長い」というやつだ。
「やっべ……」
態勢を整える前に二体の人狼が接敵。
もう爪を振り下ろす予備動作に入っている。
軽く走馬燈めいたフラッシュバックから、
そのヒーローのスキル。
クロエの一言が引き金なのだろうけれど……あったあったなんだこれ恥ずかしい。
中二病患者の例に漏れず、俺も色々な妄想を通ってきたのだった。
つまり――格ゲーにハマった中二病少年は、オリジナルキャラに技表をつけちゃったりゲージ技とか作っちゃったりするアレだよアレ。 へたくそな絵で描いたキャラの横に、インストカードみたいにして……死にたくなってくるくらい恥ずかしいぞ!?
けど思いだせた――俺の必殺技リスト。
すべての技が体力消費を伴う代わりに超性能、というのがこのキャラの特性だ。
血を使って魔法陣を描いたり、血そのものを武器として使う、そんな性能のキャラクターだった。
ここは出の早い技で敵の攻撃を止めるのが定石――自分の食らい判定が消えたりするような無敵技にはならないだろうが、当時の俺の設定なら
コマンドのイメージはテンキーの配置で言う
ただし、昨日の人狼に使ったモーションではない。
技の名を"ブラッドムーン"という。
手の甲に生成した血の刀にて弧を描く一瞬の斬撃。
人狼を紙切れのように――両断!
剣光の赤は真円と見えるほど早く描かれ、残像とともに
この技には
半分ほど残った血刀をエネルギー弾に変えるイメージ。生成した赤いエネルギー塊を突き出して
無数の血液の
あっけないほどに一瞬で2体は動かなくなった。
「つっ……」
右手首に痛み。必殺技のように瞬間的に血量が必要になったとき、このスーツはそれを動脈から借り受ける。
スーツによるリストカットの痛みは生々しいが、直後あの「作り直し」の感覚が手首を包んだからには、きっとクロエが何とかしたのだろう。
このくらいなら技後の痛みを無視すれば何とかなる。
格ゲーの技後硬直って、無理な力を出したあとの痛みだったりして。
「つぎはアー○システムワー○スか。血を使う技なら鎌使いの彼か、自分にダメージなら鍵斧の彼女か……。円を描く技で追加コマンドといえば鎖鎌の彼だが……ふむ」
「冷静に評価されるとくっそ恥ずいんだけど。
まあ、たしかに無意識に影響されてたのかもしれない」
「名前や性能といった細かいトコロは全部きみが?」
「ん? ああ、そうだよ」
名前を作って、細かいフレーム表まで作った「俺設定」による最初の技。
スーツの使い方が少しづつ分かってきた。
これなら他の技も試してよさそうだ。
「ふむ……やはりか。十分な威力だったし次もこの勢いでいこう。
秋月・久郷両名が追いついてきたぞ、空からショートカットだ」
地上を走る二人は、こっちの戦果にちょっと驚いたようだった。
うへへ、ざまあ。
空には幽霊と蝙蝠翼の目玉がいる。
格ゲーでの妄想だとこのキャラは対空が少ない。
だったら別の設定を引っ張り出せば……対応できるか?
無○系
なら、
射撃技と格闘技があって、地上と空中を駆け巡るロボットもののような。
大概の妄想は通ってきた。なんてったってこのダークヒーローは、俺にとってのメアリー・スーだったわけだから。
屋根の上を走って加速、全力で踏み切って高さを稼ぎ飛翔。
200メートル以上はあった距離を一瞬で帳消しにする。
背中と首元に痛み。血は効率的に使わないといけないけど、この痛みを何度も受けるのもうんざりするので、どうせなら一発で終わらせてしまいたい。
多数の追跡する小型のエネルギー弾は板○サーカスめいた軌道で、空の脅威に向かっていった。
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