#4 「仮想敵国」

 「敵国とはどこの国のことです、艦長キャプテン?」といって、ハンターはゆっくりと葉巻の紫煙を胸に吸い込んだ。

 葉巻の先端がチリチリと燃え、芳醇なハバナ・シガーの香りが部屋に広がった。


 雨は変わらず、庭に降り注いでいる。あたたかく、静かな午後の雨だ。

 「まさか、ソヴィエト連邦だなんていうんじゃありませんよね?」言いながら、彼は小さく笑った。「私があなたのボートに乗り組んだ時だって、あの北の友人の国の名前は『ロシア』だった」

 「あぁ、覚えているとも」私は答えた。

 「なぁ、ハンター君」と、私は言う。「敵国がどこかを設定しなければ、核戦略は立てられないかな? あの時の北の友人たちのように明確な意思を持って核を保有する国はいかにも減った。しかし、隣人に黙って核を所有する小国は後を絶たず、世界は常に核の危機を脇腹に抱えているんじゃないか?」

 「キャプテンの先ほどの講義を拝聴する限りでは、我が軍の核は世界の危機を守るためにあるのではないように聞こえましたが」まだ微笑を続けたまま、かつての副長XOは言い返した。「敵国の都市を蒸発させ、戦意を喪失させる。それが核兵器の主要目的だったのではありませんか?」


 私は、現役時代から使ってきたアルミニウムのマグカップに入った、ウィスキー入りのコナ・コーヒーを舐めた。

 「君は変わらず、頭脳明晰で―――」熱いコーヒーが喉を下る。「それに、上官への敬意の払い方を知らない男だな」

 我々は笑った。

 「あの時だって、そうだ」

 「何を言うんですか、キャプテン。あの時、艦長に敬意を払っていたからこそ、私はされるがまま、一度も殴り返したりはしなかったじゃないですか?」


 そう。

 1995年。

 我々はアラスカ沖の海中で、“事件”を起こした。

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