!」

 アーリストが、その場に残った瘴気を纏めて浄化する。

 残りは、透に根付いてしまった瘴気だ。

「私……じゃ、無理、か」

「ファライラ、今は無理に喋らないで下さい」

 アーリストが近寄り、ファライラに自らの力を分ける。折れた両翼は元には戻らないが、黄金の血は何とか止まった。

「これ、包帯……気休めにしかならないだろうけど」

「いえ、ありがとうございます」

「アーリスト、私がやるわ」

 透が出してきた大量の――なんのために置いてあったのか不明だが――包帯を使って、アルフィナが手当てをする。

「天使界に戻れば、どうにか、なる……気にするな」

「その……澄心はやっぱり天使になったんですか? 俺が描いたせいで……」

「違うわ、透。透には予知能力があるんですって。私がこうなるって無意識に見抜いてたのね」

「予知能力……」

「信じられないのも無理はありませんが、そういう不思議なものは実在するのですよ。ところで」

 アーリストの綾月姫が小さな弓へと形を変える。

「透、貴方に巣食った瘴気は思ったよりも深い。祓うことで命を落とすことはないでしょうが、まあ、気絶する程度には痛みを感じるでしょう」

「はい、覚悟します」

「アルフィナ、透が目覚めるまで待つことは出来ません。最後にかける言葉はありますか?」

 アルフィナは透に近づいて、ぎゅっと抱き締めた。

「透。透。大好きよ。それから、透の絵も大好き。だから、絵を辞めないで。私は透を残して天に昇るけれど、透はちゃんと生きて」

「澄心…………うん、描くよ」

 透の零した涙が、アルフィナの翼にぽつりと落ちる。

 すると、光のなかったアルフィナの翼にほんわりと黄色の光が宿った。

 天使になった証だ。

「バイバイ、透」

「うん」

 アルフィナが離れると、アーリストが小さな矢を番えて構える。

「いいですね?」

「はい」

!」

 小さな矢が透の左胸に突き立ち、透が小さく悲鳴を上げた。



*********************



 飛べないファライラをアーリストがいわゆる『お姫様抱っこ』をして、天使界へと三人は戻る。

「恋のために捻じれて、恋が戻した……凄いものだな」

「ええ、恋とか愛とか言われるものは、それだけ力を秘めているのですね。私もそれが心の支えです」

「は? お前、そんな相手いるのか? 誰だ!?」

「強くて美しくて鈍感な天使ですよ」

「ふーん」

 にっこりと笑うアーリストの表情に、追及しても口を割らないと判断してファライラは話題を変える。

「あのこと、言わなかったんだな」

「そのほうがおもしろ……いえ、驚きが増えるでしょう?」

「お前もなかなかイイ性格だよな」

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