3
透の鉛筆が紙の上を滑る。
剣を持った天使の細部を省略しながら、写し取っていく。
人物画は得意だから、あまり時間はかからない。
美しい天使の顔は緻密に描き込んだ。
そして。
澄心がそうしろと言ったから、大きな翼の片方……左の翼を根元から折って描く。
天使に羽の構造など想像でしかないけど、折り、骨を露出させ、血を飛ばす。
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「ああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
あまりの痛みにファライラは悲鳴を上げた。
彼女の左羽は無残に折れ、天使の証である黄金の血が辺りに撒き散らされる。
「くぅ……」
「あははははは、よくやったわ、透! ありがとう、私を守ってくれるのは貴方だけよ」
うずくまって動くことが出来ないファライラに、澄心の偽者は一歩一歩近づく。
「ねえ、天使の肉を食べると寿命が延びるって、本当かしら?」
「試そうとして死んだ魔性なら知っているな」
「ふぅん? でも、そんなに弱った貴女からなら肉ぐらい取れるかしら」
偽者の腕がファライラに伸ばされる。
その腕に、光の矢が突き立った。
「きゃあっ」
雨のように矢が偽者に向かって降り注ぐ。
アーリストが次々と矢を生み出しながら射ているのだ。
「なんで……なんでファライラの羽が折れたの?」
「透の聖画力が瘴気で穢されて、
「アーリスト、私も現界させて。私が透をどうにかするから」
「貴女にはまだ無理です、正式な天使にもなれてないのですから」
「でも! 私が透を止めなくちゃ、ファライラが!!」
右の翼が無残に折れる音と、ファライラの悲鳴が響く。
アルフィナの瞳に宿る強い光に、アーリストは賭けることにした。
一瞬だけ射るのをやめ、光の矢をアルフィナに渡す。
「それは、私の力の塊です。それを使えば足りない力は補えます。イメージして、自分の肉体を。力の解放を」
「うん!」
ぎゅっとアルフィナは矢を握り締める。
流れてくる強く温かい力。
「私に力を……現界!」
天井近くに新しく誰かが現れたので、透はそちらを見る。
栗色の髪の天使。
「…………澄心……?」
「透のバカァ!」
「透、私が本物よ。あれは天使達の虚像。惑わされないで」
偽者が透に柔らかな声で語りかけるが、透はもはや天井近くのアルフィナしか見ていなかった。
「バカ透! 変な女に利用されて、ファライラに怪我させるなんて!! 何やってるのよ、バカ!」
「澄心……」
「透、透、騙されないで、私がほんも……きゃあああああ!」
「隙あり」
宿主ともいえる透の意識が逸れたことで、力の弱まった偽者の胸にファライラの双竜剣が突き立っていた。
「このファライラ相手に、ここまでやってくれたことは褒めてやろう。だが、ここまでだ! 砕けよ!!」
爆発が起こり、澄心の偽者は跡形もなく消滅した。
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