第一章 昇格天使
1
その名の通り、天使達が住まう世界。
その中には、更に三つの『界』が内包されており、役目を持つ天使達が独自権限を持って運営している。
一つは
それらは放っておけば
一つは
一つは
原則として懲罰界は、どんな罪を犯した者も受け入れるが、あまりにも大きな罪を犯した者やそもそも堕落した魂は天使界に来ずに魔生界に堕ちてしまうことも多い。
今回は、示導界のお話。
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裁判の間では、しくしくと女が泣いている。
くたびれたカットソーに、色の褪せたジーンズ。一つに束ねた髪は、書類に記された女の享年に比べると白髪が多いように思える。
「夫が酒乱の上、ギャンブルで借金を作り蒸発……」
ファライラがこの地位に就いてから、何度読んだか解らない人間界の現実。
それでも、泣く女にはたった一度の人生での出来事なのだ。
「残された借金を苦に、幼い娘を刺し殺し、自らは首吊り。間違いないな?」
「はい」
力なく女が答える。
哀れだと思う。
だが、ただ哀れむだけではファライラの仕事は終わらない。
「何故、娘を殺した?」
「何故って……あの子は私の可愛い子です、一人になんて……」
「娘は、死ぬことに同意したのか?」
「…………いいえ……」
女が手で耳を塞ぐ。
「まだ、聞こえるんです。あの子の、『やめて、ママ、やめて!』って悲鳴が……」
「生きていれば辛い道であったかもしれん。だが、幸せになっていたかもしれん。それを、お前は勝手に奪った」
「あ、ああっ……」
ぼろぼろと涙を零す女を見つめながら、ファライラは手元の書類に判を押した。
それを、控えていた次官に渡す。
「お前の罪と心残りは、娘を殺したこと。懲罰界へと行き、その罪を償うがいい」
「はい。あの……」
「安心しろ。娘は既に転生界で新しく生まれるための準備に入っている」
それを聞いた女が初めて微笑んだ。
「ありがとうございます」
「連れていけ」
ファライラの言葉に、二人の衛兵が女を裁判の間から連れ出した。
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「ああっ、もう」
一人になった控えの間で、ファライラは鬱陶し気に裁判着を脱ぎ捨てた。
裁判の間はきっちり纏めて帽子の中に入れていた髪も、自由にする。
「ああいうのが苦手だと知っているくせに、担当させるなんて」
さくっ、と懲罰界に送れるような『明らかに悪い事』をした魂なら裁判もやりやすいのに。
先程の女は、悪い。
幼い娘を殺している。
だが、そこまで追い詰めたのは夫だし、誰も彼女を助けなかった。
「…………お茶飲みたい」
それも、示導界ではなく天使界のとある店のお茶が良い。
脱ぎ捨てた裁判着を綺麗にしまうと、ファライラは久々に示導界を出ることを決めた――勝手に。
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