第10話

程なくして、五十嵐先生は…旅立った



翔、

私はきっと最期の時に翔に会いたいと思う。

そう思える人の側にいれて私は幸せだよ


【求めあっていれば幾世時が過ぎても巡り会える】

そう、私に言ってくれた五十嵐先生の言葉は

ほんとは自分自身への言葉だったのかもしれない



傍らに寄り添い、涙を流す奥様の姿と

懐かしそうに笑った女性の姿が重なり、

私は複雑な気持ちになってた


そんな私の気持ちを察したのか、翔は私の手をしっかりと握って、前を向いたまま言った


「なぁ、静香……

五十嵐先生、幸せだったと思うよ」


「そうね…、そうよね」


見上げると包み込むように微笑んだ翔が握った手に少し力をこめてまた、見据えるように五十嵐先生の亡骸を見つめてる


きっと、決めたんだね

.

.

.

.

.

「静香…じゃ、行ってくる」


「うん」


「記者会見、6時からだから」


「しっかりと見てるよ」


「っで、終わったら…」


そう言いかけた翔は私の肩に手を置いて耳元で言った


「終わったら、・・・で待ってて」


「わかった」


私をギュッと抱きしめて、息を吸い込んだ彼は晴々しい顔をした


「っしゃ、いってきます」


「いってらっしゃい」


数えきれないほど彼の背中を見送ったけれど、今日の背中はいつもと違って一回り大きく見えた

.

.

.

pm.6:00


神妙な面持ちで会見の席についた彼はゆっくりと語り始めた



「今シーズンを持ちまして、僕の選手としての人生にピリオドを打つことを決めました。


物心ついた頃からサッカーボールを追いかけ、すべてを、かけて進んできた日々でした」



始まった記者会見

数々の質問にしっかりとした口調で答え、

最後に更に強い眼差しでこうくくった



「今まで応援してくださった方々、サポートしてくださった方々

そして、

僕をここまで導いてくださった恩師、五十嵐先生と支えてくれた妻に心から感謝します

ありがとうございました」


深くお辞儀し、顔を上げた時、

翔はすごく…すごく素敵な顔で笑った



『もしもし、静香…終わったよ』


『とってもいい会見だったよ』


『…ありがとう』


『約束の場所で待ってるね』


『うん、今から向かう』

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