第9話

○○さんを送り届け、私達は家に帰った

翔が家でゆっくり話がしたいからって


「静香、こっち座って」


ソファの横をポンポンと叩いた


「ずっと言わなきゃって思ってたんだけど…」


「うん」


「イギリスから帰国した頃から少し膝に違和感を感じ始めてた

普通に生活するには全く支障はないけど、プレイすると…。

最近、やっぱり調子悪くて、この間、診てもらったんだ」


「何で、そんなこと、早くに」


「大したことないって思ってたんだよ。

でも…サッカーを続けるなら手術しないといけないって」


「翔…」


「ただ、手術して休養して今と同じぐらいプレイ出来る保証はない。

たぶん、同じようにはいかないと思う

100%のプレイが出来ないなら、いっそ、引退するか、納得いかないプレイだったとしても現役で走り続けるか…迷ってる」


「ごめんね。何も気付いてあげられなくて」


「いいよ。俺が言わなかったんだから」


「辛い思い…してたんだね」


「別に……

いやっ、結構きつかったかな」


翔が弱音を吐くことなんてないのに…

俯いた彼の前に立って抱きしめた


私の腰に手を回して大きく息を吸う彼

言葉が続かなかった


「翔…私は翔が何処で何をしていても、ずぅーっと側にいるよ」


「サンキュ」


小さい声で言った彼が私の頬に手を伸ばす

私は精一杯の笑顔を見せて彼にキスし、髪をとくと、その手を制止するように手首を掴まれた


グイッと引っ張られて膝の上に横向き座るといつも広臣の強引なキス


口内を暴れる彼の舌はいつになく、激しく身体が熱くなる

息苦しくて、それでも、もっと欲しくて、背中のシャツをギュッと握った


「はっ、はぁ、翔」


「静香があんまりいい女だから、食べたくなった」


「ぅん、いいよ、食べても…」


「すっげぇな、静香、そんなこと言うんだ

どんな顔してんだぁ?」


恥ずかしくて目を合わせないように答えたのに頬を挟まれて顔を近付ける


「やめてよぉー

キャッ」


そのまま一気に立ち上がって

ベッドへ歩き出した


「じゃあ、遠慮なく」



心が揺らいだり、迷ったりすることは

誰にでもあるもの

どうやって答えを出すのか…

それは人それぞれ。

でも、どんな環境にいても

その答えは前に向いてるものであってほしい


翔なら、きっと大丈夫

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