第8話

朝日がカーテンの隙間から射し込み、隣で寝息をたてる彼

いつも迎える朝なのに、場所が変われば、どこか新鮮で。

何度も抱き合った感覚がまだ身体にじんわりと残ってた


彼のおでこにかかった髪をよけてキスをおとすと、眉間にシワを寄せて、背を向けてしまった


「フフ、寝起き悪いんだから」


そっとベッドから抜け出そうと身体を起こすと急に起き上がった彼に座ったまま、後ろから包まれた


「起きてたの?」


「んー、今起きた」


「そっか」


前に回した手を私の手に重ねてまだ寝起きの掠れた声で言った


「今日は…何時?」


「2時」


「俺も一緒に行くよ」


「うん、ありがとう

翔が一緒だと心強いよ。

ほんと言うとね、私1人でとても大きな事をしているような気がして怖かった。

だから、昨日たまらなくなって、翔に話したのかもしれない。…ダメだね、私」


彼は抱きしめる力を強くして言った


「そんなさぁ、強い人間ばっかじゃないよ

俺だって弱いよ 1人だと。

でも、静香といたら強くなれるんだ」


「私も!翔がいるから強くなれる」


振り返って、彼の腕を掴んで少し自慢気に言うと口に手を当てて笑いだした


「くくくっ、なぁーんか、静香って急に子供みたいになんな」


「ひどーい」


彼女の白い肌に何度もキスをして、赤い花を咲かせるとその色と同化するかのように紅色に染まっていく身体


1つになって啼いて、荒く早い息遣いが止まる。

抱いても抱いても求めてしまう


俺は静香に出会った頃に感じた愛しい思いとは違う強く深い思いを感じ始めてたんだ


それが何なのか…わからない

きっと、いつかわかるんだろうな

.

.

.

.

私達は一旦帰宅し、待ち合わせ場所へ。

そこで、○○さんを乗せ、五十嵐先生の病院へと向かった


車窓から見える蕾が膨らみ始めた桜並木を○○さんは懐かしそうに見つめていらした


翔は何も話さないけど、とても…穏やかな横顔だった


病院の敷地に車が入ると○○さんは驚い様子で私に顔を向けた


「ここ…ですか?」


「はい、申し訳ありません

五十嵐先生から病気のことは言わないようにと。

先生はこちらに入院されています」


「…そうですか」


私は先日、先生と話をした中庭に○○さんをお連れし、翔が五十嵐先生を呼びに行った


私達は少し離れたところで様子を見守った



顔を会わせた2人は一言も言葉を交わさないのにすべてのことが分かり合えたように、しばらく見つめあってた


まるで、その空間だけ、タイムスリップしたかのように…。

長い年月が一気に埋められていくような、とても不思議な空間だった


そして、○○さんはしゃがんで、車椅子に置かれた五十嵐先生の手をしっかりと握りしめ、大粒の涙を流した


先生が一言だけ何か言葉をかけるとみるみるうちに○○さんは笑顔を浮かべた


でも…溢れる涙は止まることはなかった



私もその姿を見て、自然と頬が濡れた


隣にいる翔が私の肩に手を伸ばし引き寄せ

髪に唇を埋めるようにして呟いた


「俺…静香に言わないといけないこと…あるんだ」


「話してくれるの?」


「うん…俺、迷ってるんだ」





五十嵐先生の顔を見てると、立ち止まったままではいけないような気がした

いつまでたっても、俺はあの先生に背中を押してもらってる

もう、一人で進まないと…。

そう思ってた



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