第5話
待ち合わせ場所は
郊外の大きな総合病院
入り口に車椅子に座った五十嵐先生が微笑みながら、手を振ってた
「先生、お加減悪かったんですか?」
「まぁねぇ」
「いつからですか?」
「2年前の冬だったかなぁ。
それから、入退院を繰り返してまして。
でも、結構、元気なんですよ」
クリスマスカードが届かなかった冬
あの時だ
「そうだったんですか?お見舞いにも伺えなくて申し訳ありません」
「そんなこといいんですよー。
川崎先生、少し外に出ませんか?」
私は先生の車椅子を押して病院の中庭に出た。
木々や草花が植えられた庭の端のベンチに腰を下ろし、先生と並んだ
「川崎先生、今日はお呼び立てして申し訳ありません
どうです?吉沢は頑張ってますか?」
「はい。
帰国してしばらくは沈んだ様子でしたが、最近やっと落ち着いてきたようで」
「そうですかぁ、それは良かった」
「あの、何かお話があるのでは?」
私の言葉に五十嵐先生の顔が急に硬くなり、青い空を見上げてゆっくり話始めた
「川崎先生、
いきなりなんですが
私は…もう長くありません」
「…先生」
言葉が出なかった
先生は横に座る私の方を向きなおし、神妙な面持ちで力強い口調で続けられた
「あなたにお願いがあります。
この世を去る前に…どうしても会いたい人がいるんです」
「五十嵐先生、その方は?」
「はい、かつて私が心から愛した人です。
もちろん、妻のことは大切に思ってます。
でも…最後に一目だけでいい、会っておきたいのです」
「こんなお願いをあなたにしていいものか、随分悩みました。
でも、このまま人生の幕を閉じたくはなかったんです」
「何故、翔には?」
「吉沢は…あれは、真っ直ぐな男だから、
私がこんなこと言ったら、許してくれない気がしてね」
先生の顔が一気に緩み笑顔に戻った
「あー、誤解しないでください。川崎先生が真っ直ぐじゃないって言ってる訳じゃないんですよ。
ただ、強そうに見えてアイツの心はとても繊細で壊れやすい。
だからこそ、人の気持ちを敏感に察し、包みこめる温かい人間なんだと思うんです。
今、余計なことでサッカーに影響が出ては…」
「わかります。
そういう人ですよね。翔って」
「川崎先生、
私の願いを聞いてくれますか?」
「はい。わかりました」
「ありがとうございます」
そう言った五十嵐先生の目は少し潤んでいるように見えた。
けれど、またすぐに空を仰いだ横顔はいったい何を思っていたのだろう。
人生の終わりを知った時、
人はどんなことを思い、
何をしようとするのだろう
病院からの帰り道
私は何故か、急に心細くなって翔に会いたくなって、
自然と涙が溢れた
いつもみたいに泣くなよって涙をぬぐって
抱きしめてほしくてたまらなくなった
私はあなたがいないとダメみたい。
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