第3話

Londonの夜の街をあてもなく歩いた


大切な人を大切にしたいと思う気持ちは時に絡まった糸のようにほどけなくなる


でも、ほどけなくてもいいのかもしれない。

いくつもの結び目が増えていくことで、

やがて、その糸は強くなり、切れることはなくなる


「はぁ、さっみぃーなぁ」


電話が鳴った


静香だと思って慌ててポケットから取り出すと……

っんだよ違うのかよ


「もしもしぃ?」


「吉沢かぁ、なんだ、その声は」


「別に…先生どうしたんですか?」


「川崎先生に電話したんだけど繋がらなくてな、一緒じゃないのか?」


「一緒じゃ…ないです」


「そうかぁ。

今年はちょっとバタバタしてて、クリスマスカードを送れなかったから電話したんだ。

元気にしてるか?」


「…はい」


「サッカーはどうだ?」


「まぁまぁです、いやっ、まぁまぁでも…ないですね」


「情けない声の原因はサッカーか。

…吉沢…昔、聞いたことがあったな、

何の為にサッカーをやってるんだ?って。

あの時どう思った?

たぶん、サッカーをやりたいから、好きだから…その気持ちが根底にあったと思うが、他にも思ったことがあったんじゃないか?」


「はい…ありました」


「だろうな。吉沢は今もその時の気持ちと変わってない…私はそう思うが…」


「先生」


「いつも真っ直ぐにぶれることなく、突き進む!そんな吉沢に川崎先生は惚れたんじゃないかな?」


「………」


「なら、思うままに生きなさい。

吉沢らしく進めばいい、きっと、あの人はどんなことがあっても、隣にいてくれるはずだ。

川崎先生によろしくな」


「ありがとうごさいます。五十嵐先生」


ふーっと息を吐いて、顔を上げると舞い降りる雪の向こうから、俺がいっちばん笑顔にしたい人が走って来た


俺はこの人にただ笑っていてほしい、そう思って頑張ってきたんだ


「静香っ」


「翔…」


「だから、1人で出てきちゃ危ねぇだろ」


「だって…」


「ごめん、俺が悪かった」


「うううん、翔が理由もなくあんなこと言うことはないよね

私こそ、ごめんなさい。

帰ろっ」


差し出されたその手はとても冷たくて、

でも、不思議と心が温かくなった


繋いだ手をポケットに入れると

照れるように寄り添った彼女



「なぁ…静香

日本に…帰ろうか」


「…翔」


立ち止まって心配そうに見上げた静香は細い腕を精一杯俺の背中に伸ばして抱きしめた


そして、すぐに胸に押し付けた顔を上げて、とびっきりの笑顔を見せてくれた


「うん、帰ろう!帰ろうね」


「静香、ありがとう。

……メリークリスマス」


「メリークリスマス、翔」


冷えた唇を幾度も重ねると、睫毛に積もった雪がキラキラとと頬をつたっていった

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