第12話

翔はいつものように、練習を終えて、私の部屋に来た


「静香ぁ、今日、ご飯何ぃ?」


「もう、ご飯食べたいから来たのー」


「またぁ、そんなことわかってて聞くんだよなぁ。静香は俺に好きって言わせたいの?」


「べ、別にそんなことないよ」


前に回ってきた彼をかわして、そっぽ向くと後ろから抱きしめられた


「あー、静香の匂いだ、落ち着く」


彼は私の首もとに顔を寄せて大きく息を吸う


翔の話さないと…


ずっと、そのことばかりを考えてると、

幸せなこの時間も悲しいモノクロの映画のように目に写ってた

すべてが色を失くしていた


食事が終わって、翔はいつもようにシャワーを浴びにバスルームへ行こうとした。

こんな日に抱かれるなんて、ずるい

早く、話さなきゃ。


「翔…話があるの」


「何?あらたまって」



「私達………別れよう」


「は?何言ってんの?」


「無理…だよ」


「どうして無理なんだよ?静香も俺のこと好きって言ってくれたよな」



『そうよ。大好きよ。誰よりも…』

その言葉をのみ込んだ


「やっぱり……先のこととか考えちゃうんだ。

翔はこれから大学でしょ。

私だって、それなりに結婚して幸せになりたいしね。だから…」


「だから、別れるのかよ。

俺じゃ頼りないってことだよな。

静香は…俺に、将来を預けられないってことだよな?」


「…そういうことだね」


思ってもないことを言った。

これがあなたに対する精一杯の愛なの


私が…大切な大切な翔にしてあげられることは、こんなことぐらいしかないの



「わかった。もう、いいよ」



翔は吐き捨てるように言うと、勢いよく出て行ってしまった。

私はその場にしゃがみこんで声を上げて泣いた。

彼をこんなにも愛していたことを改めて実感し、悔やんだ、自分を責めた


今はただ、彼が未来に向けて、前向きに進んでくれることを祈るしかないんだと思った


外はどしゃ降りの雨が降っていた

.

.

.

.

何処をどう歩いてきたわからない。

俺は気が付くとグランドに立ってた


ひたすら、ボールを蹴った


静香の笑顔、

優しく頬を撫でる細い指、

強く抱きしめると壊れそうな身体。


何もかもが俺の中に刻み込まれて、どうしても消えない


こんな思いをするのなら、好きになんかならなければ良かった。

出会わなければ、良かった


この雨がすべて流してくれたら、どんなにか楽だろう


2人で誰も知らない世界へ行けたのなら、

結ばれていたかもしれない


雨に打たれながら、とめどなく続く思いが頭の中を渦巻いていた

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