第6話

見下ろす彼の顔がゆっくりと近付いてくる


目を閉じてしまうと、すべてが始まってしまう

そう、わかっていたのに…

私は静かに目を閉じてしまった


吉沢くんの唇がそっと頬に触れて、力が抜けた

瞼を開こうとした途端、そこに、まだ…と言わんばかりに口付けられた

そして、首に手を回して、唇に長いキス


角度を変え、どんどん、深くなっていく唇から離れようとするけど、その度に腰をグイっと引き寄せられ、逃がしてくれない


私は年下の彼に翻弄されていた


吉沢くんは満足したかのように優しく私の髪を撫でた


目を開けると同時に強く抱きしめられる

私も、きっと彼も、見つめ合うことが気まずかった


しばらくの間、

私達はお互いの体温を感じ合っていた




私の方から何か言わなくちゃ、年上なんだし…。


腕の中で彼の温もりを感じていると言葉が見つからなかった

ただ、ただ、少しでも長くこうしていたいと願うばかり


私は意を決して、彼の胸をそっと押して顔を見上げた



「吉沢くん…ごめんなさい…私…」


私が言いかけた言葉にかぶせるようにきつい口調で彼は言う


「もう、先生だから…とか、

先生なのに、とか…言うなよ

………言うなよ」


彼は掠れた声で言うと悲しそうに俯いた

たまらなくなって涙が一筋溢れた


吉沢くんは再び、私を優しく抱きしめて

今度は低く甘えた声で


「俺は先生が好きなんだ。どうしようもなく、好きなんだ、先生は?ちゃんと言ってよ」


「私も……そう、なのかも…」


彼には聞こえなくていい

小さな声で呟くように答えた


「ん?かも、かよ。絶対、好きって言わせてやるから」


「偉そうにぃ」


泣き笑いした。

彼は私の涙を拭うと、もう一度優しいキスを落とす



離れたくない


……離れられない




「吉沢くん、もう、私…帰らなくちゃ」


「あ、あー、うん」


「また、来てくれる?」


「……うん」


そう、答えながらも私は迷ってた

その気持ちが彼に伝わったのか…


「ほんとに?嘘つくなよ」


「つかないよ。

………じゃ、帰るね」




彼と唇を重ねたということへの素直な嬉しさとどうしたらいいの?という困惑感

そして、罪悪感


いろんな感情が私の中でグチャグチャになって家に着いて、また…涙が止まらなかった



こんなにも好きになってしまった年下の彼を求めずにいられない


そんな風に思ってしまう卑猥な自分を認めたくなかった

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