第5話
駅までの帰り道
辛そうに私を見た彼の顔を思い返してた
吉沢くん、
私があなたにあんな顔をさせてしまったんだよね
私が先生じゃなかったら…
高校生だったら…
無邪気に笑って、あなたの胸の中に飛び込んでいたのかもしれない
それは出来ない
…出来ないのよ
そんな風に私はまるで呪文のように自分に言い聞かせていた
.
.
.
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駅に着いて電車に乗ろうとした時
「先生!!」
息を切らして走ってくる吉沢くんの姿
私は乗りかけていた電車を飛び降りた
ホームに駆け上がってきた吉沢くんは中腰にかがみ、肩で息をしながら私の腕をしっかりと掴んだ。
そして、すがるような目で見上げた
「先生、もう少し…もう少しだけでいいから、一緒にいて。頼むよ」
「うん…わかった」
断ることなんて、出来なかった
むしろ、私の方が一緒にいたかったから…。
吉沢くんの家はご両親が共働きでお姉さんはもう、嫁いでおられ、彼一人で過ごす時間が多いそうだ
「先生、どうぞ」
吉沢くんはさっきとは違って、嬉しそうに、はしゃいで言った
「じゃあ、少しだけお邪魔します」
「なぁーに、そこで突っ立ってんの?
あっ、そうだ!俺、腹減ったんだけど、先生料理出来る?」
「当たり前でしょ。出来るわよ」
「じゃ、何か作ってよ」
私は料理は得意な方だったので、冷蔵庫にある食材で彼が喜びそうなボリュームのあるメニューを作った
「はいっ、出来たよ」
「うわぁー、先生、すごいじゃん、上手そうー」
「まぁねぇ、どうぞ」
「いただきます」
「クスクス、ほんとにお腹空いてたんだね、そんな、慌てないで、ゆっくり食べなよ」
「うっめぇ、先生、またご飯作りに来てよ」
「何、言ってんの。私はお母さんじゃありませんー」
「先生、ばっかじゃないの?
そんなもん、先生に会いたいからに決まってんじゃん。鈍感だよなぁ。それじゃ、男出来ないよ」
「そ、そんなこと、吉沢くんに言われる筋合いないわよ」
私だって…会いたいのよ
だから、今日だって来たの
そんなこと、絶対言えないけど…。
これ以上、彼といると自分の気持ちが抑えきれない気がして、そそくさと片付けを始めた
食器を洗ってると背後に吉沢くんの気配がした
彼は何も言わず、後ろから私を抱きしめた
肩にのせた彼の顔が近くて息遣いさえも感じられる。
でも、保健室で初めて抱きしめられた時のように抵抗は出来なかった
私もこうなることを心のどこかで望んでいたから。
「俺、やっぱり、先生のこと…諦められない」
吉沢くんは耳元でそう呟くように言うと、私の体の向きを変え、肩に手を置いた。
目を…逸らせなかった
あまりにも綺麗で真っ直ぐな瞳に
応えたくなった
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