第4話
夏休みが終わり、2学期が始まった
あれ以来、吉沢くんは保健室に来なくなった
夏休みの小さな想い出
それでいいんだ。
そう、思ってた
そんな頃
昼休み、校内を歩いてると中庭から罵声が聞こえた。
びっくりして、見に行くと、何人かの生徒が喧嘩している。
私は怖くなって、他の先生を呼びに行こうとしたが、その中に1人、鋭い目で何人もの生徒を睨みつける吉沢くんの姿があった。
思わず、駆け寄った
「やめなさい、大勢で、卑怯でしょ」
「へぇ、可愛い顔してんのに、こっわっ。
どこの先生だよ?あっち、行けよ」
その生徒が私を突き飛ばした
「触んなっ!」
吉沢くんの顔が一気に高揚して、誰も止められないような勢いでその生徒に殴りかかった
周りで見ていた生徒が他の先生を呼びに行ったようで、吉沢くん達は先生方に押さえられ、連れていかれた
私は何が何だかわからず、その場に呆然と立ち尽くした
足の震えが止まらなかった
「川崎先生、大丈夫ですか?」
五十嵐教頭先生が声をかけてくれた
「顔色、悪いですよ。まさか、先生がアイツらの中に入っていくとはねぇ」
「すいません。結局、何も出来なくて」
「いやいや、いいんですよ。ご苦労様でした。保健室に戻って、少し休んでください」
「あの、あの子達は…?」
「そうですねぇ、しばらくは自宅謹慎ですかね」
「でも、吉沢くんは1人で」
「吉沢ねぇ、アイツ、最近やたらイラついてて、あっちこっちで喧嘩してるんです。何かあったんですかねぇ」
「そうなんですか…」
彼の中で何かあったか?
もしかして…私?まさか
いやっ、そこまで真剣に私のことを思ってるはずはない。自惚れよ
でも、彼の鋭く淋しげな瞳が頭から離れなかった
五十嵐先生がおっしゃった通り、吉沢くん達は自宅謹慎になった
いつも、グランドでサッカーボールを追う姿、
おどけたように笑う顔、
そんな彼を見れない毎日は心の中にスーっと冷たいすきま風が吹いてるような感覚だった
きっと、彼は辛い思いをしてるに違いない
私はたまらなくなって、放課後、吉沢くんの家に行ってみることにした
仕事とプライベートは混同してはいけない
教師ならもちろんのこと
そんなこと、わかってた
わかり過ぎるほど、わかってた
でも…………
学校の最寄り駅から2駅電車に乗り、そこから少し歩くと吉沢くんの家があった
チャイムを鳴らしたが、応答がない
諦めて帰りかけると、
「はい」
聞き覚えのある、おそらく吉沢くんの声
「あ、あの、吉沢くん?先生…川崎です。
えっ…と、大丈夫かな?と思って」
「……。」
返事がない
「元気にしてるなら、いいの。じゃ、帰るね」
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
玄関のドアが開いて不貞腐れた顔の吉沢くんが姿を見せた
「っで?どうして来たの?」
「あんな喧嘩して…心配で」
「ふーん、って言うかさ、女のくせに喧嘩ん中、入ってくんなよ」
「だって…」
「俺のこと、そんなに心配なの?生徒だから?」
「そ、そうよ」
「もう、いいよ。この間、俺に先生と生徒だからって突き放しときながら、いちいち来んなよ、帰れよ!」
彼は涙目になりながら、叫んだ
「わかった、帰るね」
私はこれ以上、彼を苦しめてはいけない
そう、思った
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