第7節 ②

「……どうと言われても、最悪ですね。なんせ傷はまだ言えてませんし、徹夜続きですし。ヴェイラーさんのほうこそ、どうなんですか?」


「いやぁ、ワタシの調子も最低だが、これから最高にするつもりだヨ。そのためにも、まだ他にも承った事件の調査が残っているのだがネ――どれもこれも変異血種ミュータント絡みだから、辞退することにしたヨ。この街からもしばらく離れるつもりダ。ワタシの探偵としての直感が『これは流石にヤバいぞ』と告げているのでネ」


「そうですか。……それがいいかもしれませんね。確かに最近、この街はいつにも増して異常です」


「うむ。此処はワタシのような一般人がいたら命がいくつあっても足りないヨ。――ところで、カタハギコーくん。これは素朴な疑問なのだが、キミがこの異常な街で変異血種ミュータントを駆除するという活動し続ける理由はなんだネ?」


「理由、ですか。それは……」


 何故だろう。どうして自分は、この街で変異血種ミュータントを駆除しているのだろう。


「……危険な変異血種ミュータントを野放しにはできないから、ですかね」


「うむ、キミならそのような返答をすると思っていたヨ。それはキミが善良だという証拠ダ。それに加えて、キミはとても優秀でな人物だと言うのは疑う余地もなイ。だからこそ私は危惧しているのだヨ――キミがいずれ、その善良さ故に己の属性に課せられたロールプレイを完璧に遂行してしまうではないかト」


「…………」


「これは探偵という役職の属性に縛られた者からの忠告だヨ。キミはいずれ、己の属性に縛られることが来るだろウ。それが正義であれ、悪であれね。その時が来たら、己の属性を投げ捨てでも真に己が成りたいものになろうとしたまえ」


「……ヴェイラーさんは、投げ捨てなかったんですか?」


「ワタシは探偵以外の属性の適性がなかったからネ。けれどキミは違うだろウ? キミはなろうとすれば、何にでもなれるタイプの人間ダ。しかしそれは素晴らしいことだが、同時に危険でもあるのだヨ。何にでもなれる力ある者が、己の持つ属性に基づいたロールプレイをそのまま遂行した先に待っているのは――自分も他人も巻き込んだ破滅のシナリオダ。ワタシはそんな者を何人も見てきタ。キミは自分に望まれた役割は捨てたが、属性は捨てきれていなイ。――カタハギコーくん。キミは、本当は何になりたいのかネ?」


 自分が本当に、なりたいもの。なりたかったもの。

 あの時、己が捨てた役割。捨てきれていない属性。


 ――それでも、僕が目指すもの。

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