第6節 ④

「……わかりました。ほんとうに、それでいいんですね?」


「うん……ごめンね、きみみたいなこどもに、こんなこと、任せちゃって」


 少年は、リボルバー式拳銃を構える。銃弾は、すでに込められている。

 変異血種ミュータントの身に撃ち込まれれば、突然変異細胞の崩壊を起こす〝銀の弾丸(シルバー・バレット)〟が込められている。


「慣れっこだから、いいですよ。――あの男に、伝えておくことは、なにかありますか?」


「…………いいたいことは、たくさんあるけど、こういうのはね……なにもいわないほうが、後々心に残るんだよ。だからね――何も、残さないの」


 そう言って、彼女は目をつむる。

 少年は銃口を、化物になっても最後まで愛した人を信じた人間へと向けた。


「……さようなら。あなたの愛は、理解できませんが――それでも」


 ――美しいと、思いました。


 波打ち際の音に一瞬、銃声が混ざる。心臓部へと撃ち込まれた弾丸は、変異血種ミュータントの細胞を破壊する。撃たれた衝撃で仰向けに倒れ込んだ女性の身体から流れ出る血は、周囲の砂を赤く染め上げる。


 本来ならば、変異血種ミュータントは核を破壊しなければ完全な死には至らないのだが――やはり、彼女は特殊だったのだろう。変異血種ミュータントの細胞が勝手に蠢く気配もない。

 最後まで自分の恋人の愚かさをも愛した女性は、砂浜の上で安らかな死に顔を浮かべていた。


 ……これから、仁後にごに依頼の完遂を伝えなければならない。


 そのとき、あの男はどんな顔をするのだろうか。

 これから、あの男はどんな人生を歩むつもりなのだろうか。


 それは片萩劫かたはぎこうにはわからない。けれど、一つわかることがあった。


「なぁ、――。俺はまた、誰も救えなかったよ」


 そう。誰も救えなかったのだ。この人も、あの男も。

 元から救えるわけなかったのかもしれない。けれど、愛し合ってる二人がこんな悲しい結末を迎えない方法だって、どこかにあったはずだった。


 ――そう思わないと、あのときの〝俺〟と〝彼女〟にも、救いのある結末があったはずだと信じられなくなってしまうから。


「〝俺〟はこれで――お前を殺すことに、近づいたか?」


 少年の呟きに、答えるものはいない。

 今宵は半分の月が、少年を照らすだけだった。

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